泡沫の夢

□意外な訪問者
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「…これは、珍しいね。君がここに来るのは…」

サカキが、書類に目を通しながら一服していると、
この場所にはあまり訪れない『旧友』が突然来訪してきた。

「…出涸らしでいいのなら、お茶を出すけど?どうする、ヨハン?」

「結構だよ、博士。
大した用ではないのでね、すぐ失礼させてもらうつもりだ。」

ちょっとした嫌味のつもりで言ってみたが、この男には効いてないようだ。

「それで、君の用というのは?」

また例の件で、話をしに来たのか、などとあたりをつけていたのだが、
どうやら彼の用というのは、自分が考えていたものとはまったく違うものらしい。

うっすら微笑みを浮かべ、こちらを見る姿はいつもと違って、少しばかり気味が悪くさえ感じられる。

「なに、昼間、私のところに可愛らしい来訪者がやって来てね。
ちょっとした取引を彼女としたので、一応君にもその事を伝えておこうと思っただけだよ。」

愉しそうにヨハンは、自分にそう言った。

彼の元を訪れた来訪者が誰かなど、聞かなくても分かる。

…ユウ。

あの少女が、この男に会いに行ったのか。

なんの用事で会いに行ったのかは知らないが、
あの子にはあまり接触して欲しくない人物だ、この男は。

「…彼女と何の取引をしたんだい。」

湯飲みを乱暴に置くと、語気も強めにヨハンに問い掛ける。

「…ふ、そう怖い顔をしないでくれ。
大した事ではないよ。
戦線に復帰を願い出てきたのでね、こちらの出した条件を満たしたのならば、
それを許す、そう言ったまでさ。」

「………」

戦線に戻る?彼女が?

ついこの間、自分の腕の中で弱々しく泣き崩れていたあの少女が、
自らの意思で再び戦いの中に身を投じると、そう願い出たのか。

…複雑な気分だ。
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