泡沫の夢
□何をすべきか
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「去る者がいれば、来る者もいる。アナグラは今日も異常なし…か。」
エントランスのソファーに、腰掛けたタツミが皮肉めいたことを口にする。
こいつにしては、珍しく毒のある言葉だと、ブレンダンは思った。
アナグラに、新しい神機使いが来たことに対しての感想といったところか。
ロシア支部から来た、有望な新型神機使い。
その新人が、傷ついたあいつの代わりに、第一部隊に宛がわれたように感じられて、その事がブレンダンには辛かった。
「ユウの代わり、なんて思いたくもねぇが…やっぱ、そうなるんかね…
はぁ…シュンじゃねぇけどよ、分かっちゃいたが、俺ら消耗品なんだよな…
使えなくなれば、新しいのにすげ替えられる…」
タツミはやるせないという風に、軽くかぶりを振ってそう言った。
事実だけを見れば、そうなのだろう。
だからこそ、あの時ユウが口にした、『ここにいる人間も守るべき人間』という言葉に感銘を受け、
そして、自分は彼女に惹かれていくことになった。
「…タツミ、あいつが今どうしているか、知ってるか?」
「ん?ああ…戦列から外されてからは、部屋に閉じ籠りきりらしい。
第一の連中が、代わる代わる様子見に行ってるみたいだから、変なことにはなってないだろ。」
…こいつは、縁起でもないことを言う。
「まあ、今までの態度の方が普通じゃなかったからな…必死に抑え込んでた感情の蓋が、開いちまったってとこか…」
「…そうだな‥」
退院して、アナグラに戻ってきた時のユウの様子は、驚くほど『普通』だった。
母親を目の前で殺されたのだから、憔悴しきっているだろうと、
心配していたこちらが拍子抜けするほどに。
ユウは泣くどころか、周りに笑顔を向けていた。
今思えば、彼女のそれは逃避だったのかもしれない。
辛すぎる現実から、目を背ける為の笑顔の仮面。