泡沫の夢
□悔恨
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軍病院の集中治療室。
ユウはその病床についたまま、未だ意識が戻っていなかった。
サカキは部屋の中、彼女の眠る傍らに座り昏睡しているユウの手を、両の手で握り締める。
その姿は、まるで神に懺悔する者のようだった。
左右肋骨五本の骨折、多数の銃傷による出血で、一時危ない状態であったが、今は持ち直している。
彼女が、この程度の傷で死ぬことはない。
アレが、どんなことをしても、この子を生かし続けるだろう。
それは分かっている。
それが分かっていても、自分はユウから離れることが出来なかった。
静かに規則正しくするこの呼吸が止まってしまわないか、この握る手が冷たくなってしまうのではないか。
そんな考えが、頭から離れず、ラボに戻ることも出来ずに、今日もこうして彼女の傍にいる。
そろそろ、ヨハンあたりに何か言われそうだが、そんなことは放っておくつもりだ。
形振り構わず、若い娘の病室に入り浸る姿は、自分でもどうかしていると思う。
まさか、一人の人間に、これ程のめり込むことになるとは思っていなかった。
手放そう、諦めよう。
そんな風に考えていたはずなのに、彼女を喪うかも知れない状況になって、始めて気付くことになるとは。
既に、離せないところまできていたなんて…
皮肉なものだ…ヨハン、今なら君の気持ちが痛いほど分かるよ…
妻を目の前で失った、彼の心痛は計り知れないものだろう。
しかし、当時の自分はそれを推し量ってやることが出来なかった。
友人として、有るまじき仕打ちだ。