泡沫の夢
□サヨナラの代わりに
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「母さん!!」
薄れ、途切れる意識の中、あの子の声が聞こえた。
動きを封じられた身体を、必死に動かし顔を声の方に向ける。
見えたのは、今にも泣き出しそうなユウの顔。
仲間に引き留められながらも、必死に自分のことを呼んでくれている。
ああ、神様。ありがとう。最後にあの子に会わせてくれて。
もっと、傍で顔を見たい。その身体に触れたい。声を…掛けたい。
でも、それは死に行く自分には、過ぎた願いだ。
あの子に出会い、幸せだった。あの子と過ごした時間は、掛け替えのないものだった。
けれど、自分はあの子から与えられるばかりで、何か返せていたのだろうか。
なら、せめて最後ぐらいは笑顔で逝こう。
あの子の記憶の中の自分が、少しでも苦痛にならないように。
ユウ…私のユウ…
あの子に向けて精一杯微笑みかける。
どうか…幸せに…
意識が途絶える最後の瞬間まで、そう願い続けた。