泡沫の夢
□儘ならない
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「博士はどうして、私なんかに、良くしてくれるんですか?」
突然、ユウが自分に投げ掛けた疑問。
青天の霹靂。その言葉は、サカキにとってまさにそれだった。
まるで、自分を意識しているかのような彼女の台詞に、胸が締め付けられる。
きっと、大した意味はない。ちょっとした、疑問でしかない。
そう自分に言い聞かす。
ユウは……ここに来るべきではなかった人間だ。
普通の世界で普通の男と幸せに暮らし、静かにその生涯を終える。
本来なら、そういう人生を歩んでいた娘だ。
神機使いになった今でも、望めばその穏やかな生活は手に入れることができる。
任期を満了し、枷を外されれば彼女は自由だ。
だからこそ、フェンリルと深く繋がる自分が、手折っていい花ではない。
「…さて、どうしてかな?君の事が、好きだからなのかもしれないよ?」
しかし、口を吐いて出たのは、そんな曖昧な言葉。
強く拒絶することが出来ない、未練がましく女々しい彼女への気持ちだった。
はっきりとしないサカキのその言葉がユウは気に入らなかったのか、
ムッとしたように不機嫌そうな顔をこちらに向けた。
そんな顔をしないでくれ。
気があるのではないかと、勘違いしてしまいそうになる。
「…君こそ、私の事をどう思っているんだい?」
諦めきれない思いを断ち切るため、そんな言葉を少女に切り出す。
今なら、まだ引き返せる。
拒絶なり否定なりを、ここで彼女が示してくれたのなら、きっと自分は諦めがついた。
けれど…
「…からかってばかりの博士は嫌いです。
でも、本気でそう接しているのなら、博士との事考えなくもないですけど?」