泡沫の夢
□深酒
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「今晩は、ユウ君。」
リンドウと交わしていた不穏な会話を切り上げ、
サカキは何事もなかったように、ユウに声を掛ける。
「こんばんはー、博士、リンドウさん。」
少女はいつものように、微笑み掛けながら、こちらに向かって歩いてくる。
「うわ、男二人だけで飲んでいるんですか?
う〜ん、何だか淋しい絵面ですね…」
男達の前で足を止めると、ユウはからかうように失礼なことを口にした。
フェンリルの制服を着てない、彼女の姿を見るのは初めてだ。
就寝前だからか、緩めのTシャツにショートパンツと、実にラフな格好をしている。
彼女の普段の制服は、きっちりし過ぎて体の線が分かりにくく、
ともすれば少年と間違えてしまいそうだったが、
こういった格好をすると丸みを帯びた女性らしい体型をしている。
だから、というわけでもないが、その姿をもう少し近くで眺めたくなって、
「なら、君が席に華を添えてくれるかい?」
などと、気が付いたときには、勝手にそんな言葉が口をついて出ていた。
「え?でも、邪魔したら悪いですし、私も飲み物を貰いに来ただけなので…」
「そうだな。お子様はもう寝る時間だ。とっとと部屋に戻れ。」
サカキの代わりに、不機嫌な様子のリンドウが、彼女に応える。
先程された彼の問いかけに対しての、自分の答えが気に食わなかったようだ。
リンドウはイライラと、小皿に乗ったつまみを口にする。
「……むっ。」
青年に露骨に子供扱いされ腹を立てたらしい彼女は、
自分とリンドウの間の席に強引に割り込むとそこに座った。