泡沫の夢
□個人レッスン
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始め、それは自分の聞き間違いなのだと、カレルは思った。
「マジで言ってんのか?」
「うん、ちょーマジ。」
自販機前のソファーに、カレルが座って缶ジュースを飲んでいると、
いつものように能天気に少女はやって来た。
理解できないことを、自分に頼みに。
『射撃の指導をして欲しい』
極めて真面目な顔つきで、目の前にいる少女はそう言った。
先日、ユウと派手な喧嘩をしたシュンは、自分とよく連んでいる。
それはこいつも知っているはずだろうに、
どうしてそんな頼みが出来るのか。
加えて言えば、自身もユウに突っ掛かったことのある人物だ。
わだかまりが、ない訳がないだろうに、こんな風に普通の態度で接してくることに、理解に苦しむ。
「この間のこと、忘れてないだろ?」
と、カレルがユウに聞くとこの間?と首を傾け、何を言われているのか分かってない様子だった。
「シュンと喧嘩したじゃねぇか。」
「うん、したね。それで?」
その返しに、カレルはぐっと言葉を詰まらせた。
普通、それだけ言えば察しそうなものだが、こいつは頭のネジが何本かぶっ飛んでいるのではなかろうか。
…いや、ぶっ飛んでるんだろうな。
でなければ、人前であんな暑苦しい事を、堂々と言い張れないだろう。
「カレルとしたわけじゃないじゃない。」
「…それでも、普通は気にするもんだろ?
俺とあいつは、まあ…親しい方…なんだから。」
最後の方は、濁すように言う。
自分で言って、気恥ずかしくなってきた。
「別に?私、そう言うこと根に持つタイプじゃないし、すぐ忘れちゃうから。」