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□メール一通、恋のもと
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「いいなぁ・・・」



そうつぶやいたアイツの声が、今も頭から離れない。







*メール一通、恋のもと







メール画面を睨みつけること、早1時間。
打っては消し、打っては消し、打っては消しの繰り返し。
履歴の1番あたまに残る漢字4文字、『花火大会』。


「はぁ・・・、何してんだ俺」


ちょうど、1週間前のこと。
井上との帰り道、暑くてしょうがないからジュースでも飲もうってことで寄ったコンビニ。
ここは俺が払うからと、ちょっとカッコつけてみたり。
つか、たかが150円でカッコつけんなって話だけど、まぁそこはおいといて。
2人分の会計を済ませて井上のところに戻ると、井上がじっと壁を見つめてポツリと呟いた。




「いいなぁ・・・」




「なにが?」と聞こうとしたところで井上が俺が戻ってきたことに気付いて聞けなかったけど、
通り過ぎざまに視線を向けて見ると、そこには1枚のポスター。
俺の悩みのもと。
それは花火大会の知らせのポスターで、「いいなぁ」ってことは行きたいんだろうってことで。
ここは1つ、勇気を出して誘ってみるかと思い至ってふと気付く。



「・・・どうやって誘ったらいいんだ?」



何せ付き合い始めたばかりで、
自慢でもなんでもじゃないけど恋愛初心者の俺。
デートらしいデートもまだしたこともなくて、しいて言えば学校の登下校くらいで。
どうやって誘おうかと悩み始めて早1週間だ。


「・・・・よし」


情けないけど、ここはもう誘わざるをえない既成事実を作っちまおう。
そう思って部屋を出て、階段を下りる。



「あ〜・・・、遊子?」
「あれ?お兄ちゃんどうしたの」

「日曜の花火大会のことなんだけど、さ・・・」
「花火大会がどうしたの?」
「あ〜っとな・・・」
「もしや一兄・・・、織姫ちゃんと行く、とか?」



夏梨がソファから身を乗り出す。
つーか、なんだそのやたらニヤニヤした顔は・・・。


「そうなの?」
「まぁ、な。ごめんな、遊子」



毎年家族で行く花火大会を、遊子は楽しみにしてるからな。
寂しい思い、させちまうな・・。



「大変!じゃあ浴衣新しいの買わなきゃ!!」
「へ?浴衣?」
「だって、もし織姫ちゃんに会ったときに妹の浴衣が可愛くないって思われたら嫌だもん!」
「だからって別に新しいの買わなくても・・・」
「あ〜どうしよう!?そうだ!そういえば今日の広告の中・・・」
「いやだから・・・」


夕飯を作っていた手を止めて、遊子はテーブルの上に広告を広げ始める。
俺の言葉なんか聞く耳を持たないって感じで、夏梨に助けを求めようとしたけど、何故か夏梨まで楽しそうに広告を覗いていて。
あーでもない、こうでもないと悩む2人の姿はすげぇ楽しそうというか、嬉しそうというか・・・。
寂しい思いをさせなかったことは良いこととしても、
兄貴としてはちょっと複雑な気分だな・・・。



「あ!お兄ちゃんは浴衣、どうするの?」
「は?俺?」



言うことは言ったし、部屋に戻るかってところで呼び止められる。


「浴衣、どうするの?」
「俺はいいよ」
「え〜!?だって織姫ちゃんと行くんでしょ!?」
「そうだよ一兄!織姫ちゃんもきっと浴衣なんだから」
「絶っ対、お兄ちゃんも着ていくべきだよ!」
「そういうもんかぁ?でも俺、浴衣なんて持ってねぇし」
「お父さんに借りればいいよ!」



「ちゃんとお父さんに借りてから部屋に戻るんだよ!」と半ば説教気味に言われてリビングを追い出される。



「つかあのヒゲ・・・、まともな浴衣持ってんのか?」



普段の服装から考えてみても、どうもあの派手好きな親父がまともな柄の浴衣を持ってるとは思えないんですけど・・・。
まぁ、とりあえず聞くだけ聞いてみればいいか。
派手なものなら即効断ろうと心に決めて、親父の部屋を覗く。

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