短編小説

□秋風に香る、恋匂う
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コンビニのドアを開けようとしながら、少し躊躇う。今までは暗くて人もいないから大丈夫だったが、絶対店員は見るだろう。鏡で確認したけれど、名波自身では違和感の方が強くて。可笑しいのか、女に見えるのか、凄く不安だったのだ。
キィ、と僅かに錆び付いたような音がする。それと略同時に『いらっしゃいませ』と声をかけられた。いつもなら気にもしない呼びかけにビクッとした。
名波は急いで中に入ると店員の死角になるよう右に曲がった。
見られている、と思うのは気のせいかもしれない。だけど視線が気になるのは仕方なかった。
羅列された雑誌の棚には一人だけ客がいる。名波は俯いたままその客の後ろを素通りした。
と、しようとした。

──っ、あ!!

チラリと見た後ろ姿に名波は思わず止まりかける。だが、勢いがついていたため止まれずに倒れてしまう。
多々良を踏むように前屈みになり、床に片手を着いた。自分の失態に名波はカァー、と赤くなる。

「…大丈夫ですか?」

躊躇いがちに横から声をかけられた。男も屈んだのか、近くで声がした。
クッ、と名波は息を止める。ビクリと跳ねそうな身体を圧し留める。

──あっ…、やっぱり…!


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