サムライ・ラガッツィ

□甘々Sweet Valentine?(桃晴前提の晴信総受…?)
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「……あ、あの……桃……?」


「………」


「は、離してくれませんか? お弁当が食べれないのですが……」


「断る」




自分の腰にしっかりと回された腕。


異を唱えるもあっさりと否定され、晴信は内心で溜息をついた。





この状況に至る、約一時間前…………




「マンショ! これをどうぞ!」

「晴信? …何だこれは?」



時間は昼休み。


晴信に渡された小さな包みを見て、マンショは首を傾げる。

晴信は笑顔で答えた。



「チョコレートです! 今日は『ばれんたいんでー』らしいので、皆さんにチョコをつくってきました!」


にこっと、女顔負けの笑顔で言った晴信に、思わず顔を赤くさせるマンショ。



「? どうしました?」

「い…いや……くれるのなら、もらっておく……///」



未だに赤い顔のまま、晴信から包みを受け取るマンショ。

すると晴信の後ろからジュリアン達も顔を出す。



「おっ! うまそー♪ コレ、晴信がつくったのかよ?」

「はい! ジュリアン達の分もありますから、どうぞ!」

「まじ!? やりぃー♪」



そう言って晴信の後ろからひょいと包みを取るジュリアンを見て、マンショはあからさまに眉を顰めた。



「……ジュリアン。晴信にくっつきすぎじゃないのか?」

「なんだよ、だったらお前も晴信にくっついたらいいだろー?」



ジュリアンはそう言って笑いながら、ぎゅっと晴信の肩に腕を回す。



「なっ…ジュリアンっ!!!」



思わず叫ぶマンショに、ジュリアンは心底楽しそうな表情を見せた。

ジュリアンと一緒に歩いてきていたマルチノとミゲルは、そんなジュリアンを見てぽつりと呟く。



「……ジュリアンの奴、完全にマンショをからかって楽しんでるね。あれ」


「………(コクリ」





「…………」



そして、そんな晴信達の様子を、遠くから不愉快そうに見つめる姿があった。



桃十郎である。



いつもならこの昼休み、来るなと言っても弁当(勿論、桃十郎の分もある)を持ってニ年の教室に来るはずである晴信が来ないことを不審に思った桃十郎。


そして彼が晴信を捜しに来ると、晴信がマンショ達にチョコを渡している姿を見つけた為、桃十郎は不愉快そうな表情になっていたのだ。



桃十郎は無言で晴信達の方へ歩いていき、苛立ちを隠そうとしない口調で晴信を呼んだ。



「……おい、晴」


「あっ! 桃、どうしたのですか?」



桃十郎が姿を現した途端に、さっきまで楽しそうに話していた面々は表情をひきつらせる。


だが晴信は幼馴染みである桃十郎の姿を見て、普段と変わらない笑顔を見せた。



「どうしたのですか? 一年のところまで来て……あ! もしかしてお弁当に誘いに来てくれたのですか!?」



桃十郎が不機嫌な原因を解っていないのかにこっと笑って問いかけてくる晴信に、桃十郎は溜息を吐くと晴信の手を半ば強引に掴んだ。



「………ちょっと来い」


「え? ……って、ちょっ! 桃っ!!」



桃十郎の急な行動にわたわたとなる晴信など気にも留めず、桃十郎は晴信の腕を引きながら足早に廊下を突き進んでいく。


そして屋上に着くと、桃十郎は晴信の腕を掴んだまま、フェンスへともたれかかる。

そして掴んだままの晴信の腕をぐいっと引き寄せると、背後から晴信を抱きしめた。



「なっ…も、桃っ!!?」



いきなりのことで慌てた晴信は桃十郎の腕から逃れようと抵抗するが、抵抗するとその分腰に回された桃十郎の腕の力が強まり、晴信は諦めて大人しくする事にした。



……だが、この状態のままでは弁当を食べることもできない。



「……あ、あの……桃……?」


「………」


「は、離してくれませんか? お弁当が食べれないのですが……」


「断る」



ばっさりと即答され、晴信はうぅ…と小さく唸り大人しくなった。



「………」


「………」



昼休みな為か、廊下やグラウンドで騒いでいる生徒達の声が、晴信達二人以外誰もいない屋上に響いてくる。


晴信は、ちらりと桃十郎を見上げた。


すると、桃十郎と思い切り目が合ってしまい、晴信は慌ててしまう。


漸く、桃十郎が怒っていることに気がついたのだ。



「あっ、あの……桃……ッ」


「……なんで…アイツらにチョコなんか渡してやがる……」


「……え?」



慌てて口を開こうとした晴信を遮って呟いた桃十郎に、晴信はぱちくりと目を見開かせる。


桃十郎は、晴信を抱きしめている腕にぎゅっと力を込めると、また呟き気味に口を開いた。



「……しかも、あんなに楽しそうにしやがって……」

「え……き…今日は『ばれんたいんでー』という日だと聞いたので…、ちゃんと桃の分もありますよ?」



ほらっ! と、自分が手に提げていた紙袋の中からマンショ達に渡したものより少し大きめの包みを取り出すと、桃十郎に手渡す。


そういうこと言ってるんじゃねぇよ……と溜息をつきたくなったが、鈍感な晴信には何を言っても無駄だと感じた桃十郎は素直にその包みを受け取った。


がさっと包みを開けると、包みの中には少々歪な形のチョコと、パウンドケーキのようなものが入っていた。



「チョコもケーキも、江さんに教わりながら、甘さ控え目に作りました。形は……失敗、しちゃいましたが」



そう言ってあはは…と苦笑する晴信。


桃十郎はチョコを一粒つまんで口の中へ放り込むと、少しして顔を顰めた。



「……甘ェ……どこが甘さ控えめだ、」


「えぇっ!!? 砂糖もそんなに入れていないのに!」


「てめぇ、ちゃんと味見したのかよ」


「はい! わたしには…少し苦かったです……」



味見した時を思い出したのか、晴信は顔を僅かに顰めた。

桃十郎はそんな晴信の姿を見て溜息をつき、晴信の顎を掴むとくいっと自分の方へ上向かせる。



「……なら、もう一回食ってみろ」



そう言われた途端、晴信の唇は桃十郎に塞がれていた。



「んっ…!? …ン…っ、ふぅ……っ」



突然口づけられて抵抗しようと彼の胸ぐらを叩こうとした晴信だったが、その前に桃十郎の舌が晴信の咥内に入り込み、抵抗する間もなく力が抜けていってしまう。


桃十郎は口の端に残していたチョコを晴信の咥内にへと移し、そのまま舌を絡めた。



「ん、んぅっ……ふ、ァ……」



チョコは絡まり合う二人の舌の温度で溶けてしまい、後に残るのは溶けてしまったチョコのほろ苦さと甘み。

だが晴信には、それがチョコの甘みなのか桃十郎と口づけているからなのか、解らなかった。

くちゅ、ちゅくっとお互いの舌が絡み合う水音が晴信の聴覚を刺激し、晴信の頬が紅潮しはじめる。


呼吸が苦しくなってきたと同時に唇を離した桃十郎は、晴信に問いかける。



「……どうだ、苦みなんて少ししかねぇだろ」


「わ、たしには……わか……りませんっ……」



先程の口づけの所為で荒くなった呼吸を整えながら口にする晴信に、桃十郎は小さく笑った。



「あれだけのキスでへばるとは、てめぇもまだ子供だな。晴」


「っ! …も…桃ッ!!!」



顔を真っ赤にして叫ぶ晴信を見て苦笑を漏らした桃十郎は、そのまま晴信の肩に顔を埋めた。



「……桃?」


「……もう寝る、」


「ええっ!? 授業はどうするんですか!」


「サボるに決まってんだろ。……いいから寝かせろ」



慌てた様子で叫ぶ晴信に対してそう言葉を返すなり、桃十郎はそのまま眠ってしまった。





「……もう……」



自分の肩に顔を埋めて眠ってしまった桃十郎を見つめながら、晴信は溜息をつく。



『……なんで…アイツらにチョコなんか渡してやがる……』



先程の桃十郎の言葉を思い出し、晴信は思わず笑みがこぼれた。



桃十郎が嫉妬してくれたことが、嬉しかったから。



晴信も桃十郎の躰に寄りかかると、そのままそっと目を閉じた。










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