春蝶の舞

□ピアスの秘密
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明るい満月の夜、神社の自室の縁側にいると梵天がやってきた。


月の光をはじく金髪に見惚れていると、彼はいつもの樹に腰掛けた。


その様子はどこかいつもの様子ではなく…
何かを気にしているようで…


「どうしました?
 いつもと様子が違いますよ?」


「何でもないよ。」


そうですか、と梵天に向けた視線を己の手元にうつす。


その時に、今まで無かった物が目に入る。
梵天の耳と口を結ぶ金に光るピアスを…


「それ、どうしたのです?」


梵天がドキッとした。
それから平静を装って言う。

「ああ、これかい?
 ちょっと願い事をね。」


「願い事?あなたが?
 今日は天地がひっくり返るのでしょうか?」


なんて笑うと真っ赤に怒った顔…


「五月蝿いよ。
 願い事くらい妖だってしてもいいだろう?!」


真剣に真っ赤になるなんて…それだから鶸なんですよ、あなたは。


「で、願い事とは何ですか?」


「何で言わないといけないんだい?
 君、色々と性格悪くなったよね。」


「そんなことありませんよ。」


こんな他愛も無い話をして、心から笑うなんて久しぶりですね…


「ところで、どうして願い事なんです?」


「ピアス穴を開けると、運命が変わるって言うからね。」


真顔でそんなこと言うなんて!!
顔に出ていたのか、梵天が怒る。


「五月蝿いよ!
 それぐらい構わないだろう。」


「いえ、あなたから運命なんてそんなキザな言葉がでるなんて思いもしませんでしたから、つい。」


「君はつくづく失礼な奴だね。」


「誰の影響でしょうか?」


「俺だっていいたいのかい?」


「よくわかりましたね?」


「俺を誰だと思っているんだい?」


楽しい時間はすぐ過ぎるなんてよく言うとおもいます。


こんなにも、彼との別れが辛く感じるなんて…


「…梵天」


「何?」


「お願いがあります。」


真剣な眼差しに出掛った悪態を喉にとどめる。


「どんな?
 自分だけ楽になりたいとかはきかないよ。」


「今日だけ…、今だけ私の隣に座ってくれませんか?」


「?」


「私からあなたへの最期の願いです。」


「……わかった。」


縁側の銀朱の傍に腰掛ける。
少しの沈黙が続く。


「銀…んんっっっ!!!!」


「梵天…梵天………!!!!」


突然の銀朱からの深く甘い口付けにふらふらする。
うまく酸素を吸えなくて揺らぐ視線の中に、銀朱の顔が見える。


どうして、君は今にも泣きそうな顔をしているんだい?


俺は、寂しげな銀朱よりも馬鹿で間抜けな銀朱を見たいのに…


ピアスは自分じゃなくて、銀朱の天網に雁字搦めにされた運命を変えたくてあけたんだよ。


それなのに、そんな顔するなんて…



やっと長い口付けから開放されて、息が上がる。


「銀朱、「私も耳にあけたいです。」


「でも、君は姫巫女だよ。」


「あけられたら、あなたと私のこの先の運命を変えられるかもしれませんのに。」


「…………。」


「さっきの話ですが、あなたの願い分かってしまいました。」


いたずらに笑う銀朱に軽くため息をつく。


「そうかい。
 でも、その願いに対する思いは分からないだろう?」


「そういうあなたこそ! 
 さっきの私の思い分かりますか?」


「簡単だね。」
「簡単です。」


二人の声が重なる。


(愛しています。だろう?)
(愛してる。でしょう?)


お互いのことは、お互い一番知っていると笑いあった。




+*+*+*

気になっていた梵天のピアス…
ピアスをつけた理由があると、女々しいかもしれませんがいいですよね。


これはどのジャンルに分類されるのでしょう?
甘?切?、わかりませんね(笑)



11’8’19
 

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