春蝶の舞
□しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
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冬の厳しい寒さに震えながら、火鉢で暖をとる私は突然のことに噴出しそうになった。
鶴梅の一言で―――――
「銀朱様、少し聞きたいことがあるのですが…」
控えめな彼女をやや不振に思い続きを促せる。
「どうしましたか?」
「銀朱様は仕事を終えられると部屋に戻りますよね?」
「はい、そうですが…?」
「何人かの巫女が、銀朱様が森へ入っていくのを見たそうなので…」
「そ…そうなんですか?」
「気を付けて下さい。
あなたは姫巫女様なのですから、くれぐれも一人で森に入らないでください!
この前のように怪我をしないでください。」
まさか…見られていたとは……
「気をつけますね。」
「二度はありませんよ!」
「…はい。」
今日は白禄さんに言いたいことがあったのですが…
「それと巫女たちは、銀朱様が楽しそうだったと言ってました。
あの森には人がいないのではありませんか?」
目聡い!!
「い…いえ、森の空気が心地良いのですよv」
「そうですか。」
隠さなければなりませんね…
私、そこまで楽しそうな顔をしていたなんて…
*
*
*
少しすると、周りを見ながら鳥居の方から歩いてくる銀朱が見えた。
近くにあった石をつかむ。
たくさん積もった冷たい雪に包み込むように先ほど拾った石を入れる。
それを暢気な顔した馬鹿に投げる。
ごっと鈍い音がなった銀朱の頭。
「だっ!」
「二度も同じことをするなんて、足りてない証拠だよ。」
「白禄さん!
ひどいですよ!石入りなんて…!」
「引っかかる銀朱が悪い。」
きっぱり言い切る。
「白禄さん、今日はあなたに負けるわけにはいきません!」
張り切っている銀朱に呆れたようなため息をつく。
「そんなこと言って勝ったことがないのにね…」
「というわけで、今日は将棋をしましょうv」
「……あえて俺の苦手なもの選んでるよね?」
「さあ?なんのことでしょうか?」
「まあいい。
俺はそろそろ苦手じゃなくなってきたからね。」
*
*
*
*
結果は鶸の惨敗。
嬉しそうな銀朱と苦虫を噛み潰したような顔の鶸。
「では、言いますよ。」
「……………………。」
「これを食べてください!」
そんな胸張っていわなくても…
銀朱の掌には寒椿の練切があった。
「あなたに渡そうと思ったことがあるのですが、当時はそれどころじゃなくて渡せなかったんです。」
「……。」
「どうぞ。」
銀朱の掌から練切を取って口にいれると、あんこの上品な甘みが口にひろがる。
…美味しい。
「どうですか?」
「甘すぎ。」
絶妙な甘さで美味しかったのに憎まれ口しかたたけない自分をうらむ。
簡単なその一言を言えば華がほころぶような笑顔になるのに。
「ありゃー、練習しときますね。」
「しなくていいよ!」
それでも笑顔をみせる銀朱…
いつしかここに来るのが楽しみになっている。
+
+
そんな憎まれ口たたかなくても…
でも、私にはわかる。
彼が本当に言いたいことを
口ではそうですが、あなたの笑顔は本当のことを言ってくれてますよ。
「また、作りますね。」
雪を叩いてすっと立つ。
そろそろ巫女が探し出す。
ざっざっと雪を踏んで二、三歩歩いてくと、ふと言いたかった言葉を思い出す。
白禄さんの方へ向き直り、耳元にこそっと言う。
「あなたが好きです。」
火がついたように赤くなる顔をみてくすりと笑う。
「ば…馬鹿じゃないの?!」
彼はずんずんと森に帰っていった。
彼の背中を見送り、社に足を向けた。
”しのぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで”
+*+*+*
二人にとって一番幸せだった頃じゃないでしょうか?
今回も百人一首でつくってみました。
11’8’8