春蝶の舞
□居場所
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暖かい春の日差しの中、なんとなく彼がいるような気がして縁側に出る。
思ったとおりに梵天がいて思わず笑ってしまう。
「何、笑ってるんだい?」
「いえ、あなたがいるような気がして来て見ると本当にいるとは思いませんでしたから。」
「ふーん。」
「それにしても、どうしました?
最近ここに来る頻度増えてません?」
「何でもないよ。」
「私は嬉しいですけどね〜。」
「馬鹿じゃないの?」
「懐かしい言葉ですね。
あの時もよく来てましたね。」
「暇だったからね。
どこへ行くにも俺の居場所は無い。
唯一あったのが、銀朱のところだったんだよ。」
「だったとは、聞き捨てなりませんね。」
「え?」
「今も私の隣はあなたの居場所です。
あなたが来なくても梵天の場所です。」
さやっと風が吹く、桜が散り始めたこの頃。
この桜吹雪が止めばいないとかは嫌ですよ。
そんなことを思いもしない自由な鳥は桜に劣らないほどやわらかく微笑んで、桜吹雪の中姿を消した。
梵天がいなくなってから、誰にも言わないように桜に言う。
「私が今も生きながらえているのは、真朱のためでもあります。
でも、本当は梵天のため…なんですよ。」
ガサリと桜の樹の後ろから葉を踏み分ける音が聞こえた。
「それに、涙もろい梵天のために死ぬわけにはいけませんからね。」
音がした桜に向かって微笑んだ。
”あと、何回こうしてあなたと桜を見ることができるのでしょうか?”
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