春蝶の舞
□間抜けで頭ゆるゆるな君へ
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平八の長屋にて
「ひ〜、あいつ何したんだよ鴇!!」
その頃、鴇がくしゃみをした。
梵天の顔にストレートにあたった。
まずいって思ったけど手遅れ、ひくひくと顔がつっている。
「六合、お前何するんだい…?」
わー、すごい顔…
どころじゃない!!!!
「ご…ごめん、」
「まったく、君が銀朱と記憶を共有したことは、唯一の救いかもしれないけど、へんな所まで似たね。」
「へんな所って、どういうことだよ?」
「人を馬鹿にするところ、間抜けなところ、頭ゆるゆるのところ、他にもいろいろ…ね。」
じっと梵天を見つめる。
梵天はどこか嬉しそうで、悲しそうで……
「冬の間銀朱さんの所に通っていた位、銀朱さんのこと好きなんだね…。」
鴇のその一言で空気が固まる。
「六合?」
「いや、ごめん。
気にしないで!」
このまま、何か言えばさらに梵天の機嫌が悪くなる!
「知っているんだろう。
銀朱と俺のこと。」
「まあ、見て嬉しいものじゃなかったけど。」
「そうだね。
銀朱には君と同じようなことされたことあるしね。」
「もしかして、さっきの?」
「そうだね…
ずっと昔の冬のこと―――――」
*
*
*
*
*
二月の最も冷える頃、いつもどおり銀朱を待っていると雪を踏む音が聞こえた。
ぱっと顔を上げて、足音の方を見ると赤い顔の銀朱がいた。
「銀朱、どうしたの?」
「いえ、風邪をひいたんです。
明日には治っていますよ。
そうそう、あなたに襟巻きをつくったんですよ。」
「ふーん。」
何を思ったかくすくす笑い始める銀朱。
「どうぞ。」
「いらない!」
「どうしてですか?!
あなたがいつも寒そうな姿ですから、風邪をひくのではないかと心配してですね!!」
「違うだろう…
どうせろくな事考えてないんだろう。」
「そ、そんなことありませんよ…?」
「なんで疑問系なんだい?」
「いえいえ、気にしないでください。
ほら、受け取ってください。何もしませんから。」
「そういって、いつもするのはどこの誰なんだろうね?」
「誰でしょうね〜?」
「君、性格悪くなったね。」
「そ…そ………」
「?」
「は…」
「は?」
「くしゅんっっっ!!!!!!!!!」
「……………………。」
銀朱のくしゃみによってとんだ鼻水は、見事に鶸の顔にべっとりついている。
「………銀朱、」
「ご、ごめんなさい!」
「まったく、何するんだい?
俺はいらないよ。君が使えば?」
ごしごしと銀朱から受け取った布で顔をふく。
「私が使うんですか?
貴方のほうが寒そうですよ。
それ、夏服じゃないですか!」
「俺は寒くないからいらないよ。」
「なら、こうしましょう!
あなたは私に使えと、私は貴方にと…
なら、一緒に巻きませんか?
そうすれば、お互い温いですよ。」
「ふん、嫌だね。」
「では、私の問いかけに答えることができたならやめましょう。
貴方が答えられなかったら私の勝ちです。」
「却下。」
「おや、白禄さん?
答えられないのですか〜?」
「…何?
いいよ、俺に答えられないことなんて無い!」
(ふふ、こういう人は扱いやすいですね。)
「では、私の好きな食べ物は何でしょうか?」
「は?」
「これ一問ですよ。」
「……あんたが俺の前で食べ物食べたこと無いよ。」
「わかりません?
私の勝ちですかぁ〜?」
「………甘味?」
「それは趣味です。
好きな食べ物はお米です!
というわけで、一緒に巻きましょう。」
「そんなの、答えられるわけないだろう…」
銀朱が鶸にずいっと近づく。
「ちょ、近寄らないでよ。」
「近づかないと、一緒に巻けませんよ。」
「うわ、鼻水垂れてる…」
「垂れてませんよ〜」
「着物に付けないでよ!!」
「付けてませんよ〜」
「はあぁ。」
千歳緑の着物に鼻水がついた。
ふわっと首に巻かれる襟巻きが暖かい。
「暖かいですね〜。」
「そうだね。」
しばらくすると、雪が降り始めた。
舞い散る白い花弁のような雪を見つめて、銀朱が口を開く。
「また、冬が廻ってくるといいですね。」
「何言ってるんだい?
冬くらい、嫌でも廻ってくるよ。」
「いえ、貴方が隣にいる冬ですよ。」
「…………。」
「嫌ですか?」
「俺も…俺もそう思うよ。」
「貴方にしては珍しいですね。
だから、雪が降ったのですね〜」
銀朱の言葉にイラついて襟巻きを外して、銀朱の足を踏む。
「痛い!!」
「うるさい!」
鶸は森にガサガサ入っていった。
その方向を見つめ言う。
「どうか…このままで―――」
それを言うと、社に帰った。
雪に濡れた衣を引きずっていると鶴梅に見つかった。
「ひ・め・さ・ま?
貴方は風邪をひかれているのに、どうして雪の舞う外へ出られるのですか?!」
「ご、ごめんなさい…」
「早く、お着替え下さい。
悪化しますよ。」
「そうですね。
鶴梅、子供が好きな甘味は何かわかります?」
「団子などでしょうか?」
「そうですか。
今度作りますね。」
「ダメです。
姫巫女様である貴方があのような所に出入りされるなんて…」
「もう、お菓子が食べられなくてもいいんですか〜?」
「う…それは……
三日に一度なら許します。」
にっこりと微笑む。
今度こそたべてくれますよね?
白い雪が静かに舞う遠い冬のこと―――
*
*
*
ぽかっと口を開けている六合。
「こんなことがあったね。」
「お前が過去のこと話すなんて珍しいな。」
「そうかい?」
「結局、銀朱さんのお菓子は食べたの?」
「俺は食べ物全般嫌いなんだよ。
食べるわけ無いだろう?」
「食べ物全般嫌いって…!!」
「うるさいよ。
苦手な物は苦手なんだよ。」
「だから、肋骨ういているんだね〜。」
*
*
懐かしい思い出だね。
あんたが隣にいればいいのに…ね。
帝天に消されるなんて、本当にいつまでも間抜けで頭ゆるゆるだね。
そんな君に一言。
俺は君が好きだったよ。
だから、隣にいて襟巻きを巻いて―――
鴇の眼帯から一匹の蝶が梵天の指にとまる。
それは、泣かないでというように――――
+*+*+*+*
お疲れ様でした。
短編にしてはやや長めな話でした。
12巻の鴇が梵天に鼻水つけた所が結構好きです。
11’8’22