薄桜鬼

□桜
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「副長! 彼女とどんな話をしていたのですか!?」

雪村君が副長に呼ばれたらしいと聞き、慌てて来たのだ。

そして気配を消して盗み聞き――いや、なんでもない。

雪村君が副長室に入ってから扉の前に張り付いていたのだが、二人とも声をひそめていたため何も聞こえなかった。

それからしばらくして彼女が出て行ったところで――我慢できなくなったのだ。

彼女と二人で一体、どんな話をしていたのだろう。

「副長!!」

「――ああ、山崎か」

またか、とでも言いたげな顔をされる。

確かに今までも同じように副長に詰め寄ったことがある。

――そして、これからもあるのだろう。

「別に、大した話じゃねぇよ」

「ならば、なぜ声をひそめていたのですか」

「おい、山崎。盗み聞きしていたのか?」

「……」

墓穴を掘ってしまった。

……ばれてしまったものは仕方がない。

「大した話でないのなら、どうして声をひそめていたのです」

「……山崎、しつこいぞ」

言われて、口をつぐむ。

「あのなぁ、黙ってりゃいいってもんじゃねぇよ」

じっと見つめているのがうっとおしかったようだ。

「あぁ、分かったよ」

先に折れたのは副長だった――

「――だがな、この話はおまえに聞かせるわけにはいかないんだ」

と思ったら、断られてしまった。

「副ちょ――」

「駄目なものは駄目だ」

なおも言いつのろうとしたところを遮られる。

「あんまりしつこいようなら――」

ちらりと刀に目をやる副長に、俺は聞きだすのをあきらめる。

「すみませんでした」

「分かったならいい」

とっとと行け、と促される。

そのまま戻った俺は知らない。

副長がつぶやいた言葉を。

「――まさか恋愛相談をされていたなんて、言えるはずがないよなぁ。しかも好きなのが山崎だって言うんだからな。最近なんか悩んでるようだから呼んで話を聞いたらそんな事とはなぁ」

何で山崎も自分から告白しないかな、とため息をついた。





「あっ、沖田さん。頼まれていたの、出来ました」

「ありがとう、千鶴ちゃん」

とりあえず雪村君を追いかけてみると、ちょうど沖田君に話しかけているところだった。

――頼まれていたもの……?

「では、私はこれで」

何かを手渡した雪村君は、どこかへと駆けて行った。

その背を負うか迷った俺は、呼ばれる。

「山崎君? そこにいるんでしょ、出ておいで」

――気づかれたか。

「盗み聞きなんて、君も趣味悪いよね」

「君にだけは言われたくない」

「いやだなぁ、山崎君。それ、どういう意味?」

「――聞きたいことがある」

「無視? まあ、いいけど。で? 僕に聞きたいことって何?」

「雪村君に何を頼んでいた」

「ああ、これね」

そう言ってさっき渡されていたものを取り出す。

「ちょっと袖を破いちゃったから、繕ってもらったんだ」

少し見せびらかすような感じで見せつけてくる沖田君。

いちいちムカつくやつだ。

これ以上ここにいても無意味だと思ったので、沖田君に背を向けた。




一回雪村君を見失った俺が次に彼女を見つけたのは、厨房だった。

何かを作っているようだ。

扉の陰から気づかれないようそっと覗きこむ。

――和菓子?

その手から作り出されるのは、桜。

外で豪奢に咲き誇っている桜も綺麗だが、彼女の手から生まれる繊細な花びらも綺麗だ。

思わず見とれていたら――

「山崎さん?」

「ゆ、雪村君……」

いつの間にか彼女が横に来ていた。

「私に何かご用ですか?」

「そういうわけではないのだが――」

「あ、あの、山崎さん。今、忙しいですか?」

「いや――」

「良かった」

突然顔を輝かせる雪村君に、俺は何がよかったのかと首をかしげる。

「今、お菓子作っているんです。もう少しでできるので、一緒に食べましょう」

「かまわないが」

俺の返答を聞くや否や駆け戻っていく背に、笑みがこぼれる。

俺は、彼女のこういう無邪気なところが好きだ。

「山崎さん、庭でお茶にしましょう」

準備を終えて戻ってきた彼女が、微笑みかけてくる。

そして庭に出た俺たちは縁側に腰を下ろした。

「桜、綺麗ですね」

「君のほうが綺麗だと思うが」

「え……///」

舞落ちる花びらを眺めながら言う雪村君に、つい本音が出てしまった。

頬を染める彼女に、この思いを伝えるなら今だと思った。

「雪村君……」

「は、はいっ。なんでしょう」

「俺は君のことが……」

「……?」

「す……、好きだ」

恥ずかしくなってきて目をそらす。

「え……///」

耳まで真っ赤になる彼女に、もう一度ささやく。

「君のことが好きだ」

「や、山崎さん///」

どうしたらいいのか戸惑う雪村君に、気持ち
を伝えないほうがよかったか、と後悔し始め
た時だった。

そっと手に触れたぬくもり。

「私も……」

きゅっと握られ、驚きつつも握り返す。

「私も、山崎さんのこと……好きです」

恥ずかしげに聞き取れるか取れないかの小さ
な声で言われた言葉に、目を見開く。

驚いて見つめると、目をそらされてしまう。

その仕草がとても可愛くて。

「雪村君……」

つないだ手を離し、代わりにギュッと強く抱
きしめる。

「や、山崎さ――」

慌てる彼女に軽く口づける。

「ずっと一緒にいてくれるか」

「はい」

真摯な瞳を嬉しく思う。

「私も山崎さんのそばにいたいです」

その言葉が、一瞬で俺を幸せな気持ちでいっぱいにしてくれる。

「私、山崎さんから離れませんよ」

「俺も、君を手放したりしない」

「山崎さん!!」

抱きついてきた彼女を、受け止める。

――その光景を、一部始終を見ている者たちがいることも知らずに。

「あーあ。彼女、山崎君に取られちゃったか」

「総司、黙ってろ。あの二人に気づかれたらどうする」

「斉藤、お前も黙っとけ」

「おっ。土方さんまで来てたなんてな」

「それは――」 ●●

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