薄桜鬼
□これだから
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「斎藤さん、お疲れ様です」
そう言ってタオルが差し出される。
「ああ……ありがとう」
顔をあげると、案の定雪村がいた。
――何故ここまで気がきくのだろう。
軽く汗をぬぐいつつ見やる。
そして目の下のものに気づいた。
「隈……」
「え?」
隈ができていることなんて、全く気付いていなかったのだろう。
驚きの声が上がる。
「お前、ちゃんと寝ていないのか?」
俺は眉をひそめる。
そして心当たりがあったのか、雪村はあわてだす。
「そ、そんなことは――」
「夜遅くまで何をしていた」
詰め寄る俺だが、雪村は言おうとしない。
「斎藤さんにだけは言えません」
「何故だ」
「それは――」
「言わないのならばそれでいい。吐かせるまでだ」
何が起こるのかと戸惑っている雪村へ、口づけようとする。
「ちょ……// 駄目ですよ、みんなに見られてます……///」
「だからなんだという。俺たちがつき合っていることなんて、校外にまで広まっている」
「そういう問題じゃありません……私が恥ずかしいんです。分かりました、言いますから」
そんなに嫌だったのかと、悲しくなる。
「それで、何故夜更かししていたんだ」
「えっと……」
早く言え、と目で促す。
「その、編み物してたんです」
「編み物?」
「はい……」
俺には、編み物のために夜更かしをする心が分からない。
「わ、私だって、徹夜するつもりはなかったんです。でも、思ったより時間がかかっちゃって……。今日までに仕上げなきゃと思ってやってたら朝になっちゃてたんです」
「徹夜……?」
「あっ――」
「まあいい。それは後だ。今日までにとは、どういうことだ。課題でも出されていたのか? ならば無茶な課題を出したやつを斬――」
「まっ、待ってください!!」
「なんだ。お前を徹夜させたやつをかばってやろうと言うのか?」
「違うんです……」
「?」
「あの……マフラー編んでたんです」
「マフラー?」
「斎藤さんに、クリスマスプレゼントをと思って……」
「俺のために徹夜したというのか?」
「……」
怒られると思ったのか眼をぎゅっとつぶる雪村。
その頭に、ポンと手を置く。
「馬鹿だな」
俺が怒らないことに気づいた雪村は、目を瞬かせる。
決まり悪くなった俺は目を泳がせる。
「俺のために徹夜したやつを怒れるわけないだろ」
「斎藤さん!」
飛びついて来た雪村に、俺はため息をつく。
全く。
あまり俺のために自分を犠牲にしないでほしい。
でも――。
そういうところがあるから、俺は雪村のことが好きで好きで仕方がないんだ。