□お題
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百年の恋をも冷めさせてほしい

 こんなにつらいのなら知らないほうがよかった。


「あらぁ?ついこの間まで『寝取ってやる!』と息巻いていらっしゃったのは、どこのどなたかしらぁ?」

 厚めの唇に人差し指をあてて、下から覗き込んでくる友人。その目には少し落胆の色が見えた。
 私はため息をつく。

「……だって、勝てる気がしないんだもの」
「まあぁ!今更気づきましたのぉ?あの子に勝てる可能性なんてあなたには万に一つもないことは明白ですわぁ!それでいて勝負を挑んだのだとばっかりわたくしは思ってましたのにぃ」
「…あんたねぇ。いかにも傷心してますっていう友人を前にしてよくそんな追い討ちみたいなことが言えるわね!!少しは慰めるとかないの!?」

 あまりの言い草に怒鳴ってやると彼女は驚いたような顔をした。

「まあまあぁ!驚きましたわぁ!あなたが傷心?まあぁ!あなたがそんな殊勝な方だったなんてわたくし知りませんでしたわぁ!まさに驚天動地、青天の霹靂ですのぉ!」

 本当に驚いたようで目をまんまるくしている。こんな彼女の表情を見るのは初めてだ。

「そ、そんなに驚くこと?」
「ええ。もちのろんですわぁ。わたくしの印象では厚顔無恥、図々しくて無神経。人の迷惑なんてかえりみずわが道をばく進している方。というのがあなたでしたのぉ」

 えらいいわれようだ。声もない。そんなわたしにかまわず彼女は続けた。

「…そんなあなたがそんなに弱弱しい方だったなんて……。認識違いでしたわぁ」
「…妙に落ち込んでない?」
「当然ですわぁ。そんな方だからこそわたくしの友人という立場でいられたと思っておりました。そんなあなたのことを誇らしくも思っていましたのよぉ?残念ですわぁ…」

 彼女がそんなことを思っていたなんて私は今知った。わたしは思わず言ってやった。

「そんなに言うならいいわよ!見せてやるわ!あの女から寝取ることができないのは、あいつが見る目がないんだわ!そうよ!あんたが思うように私は十分魅力的なんだから!」

 ぐっとこぶしを作ってガッツポーズをする。
 彼女はぱちぱちぱち、と小さく拍手をしていた。

「……ホントに、単純な方ですわぁ」
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