□絶対アイドルまよよ
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 人間誰しもどうしようもない欠点はあるとおもう。ただ私はそれが顕著すぎるだけだ。私の欠点。それは「気が強すぎる」ということだ。私は女である。どうしたって男にかなわない時がある。私はそれがたまらなく悔しい。だからいつだって舐められないよう高圧的になってしまうのだ。いくら世間が男女平等を謳ったところで個人の係わり合いで成り立つ社会で身近になるのは個人の感情だ。未だに男は仕事女は家庭なんていう古臭い考え方をするひとだっている。だからいつだって高圧的になってしまうのだ。大事なことなので2回言わせてもらいました。
 そのせいか私は男に限らず人に敬遠されてしまう人種となってしまった。それは仕方ない。誰だってこんなプライドの高い女の側にいたいなんて思わない。面倒なだけだ。しかしそれはあくまで周囲の目である。私自身の感情とはまた別だ。つまり何が言いたいかと言えば、私は寂しいオンナなのだ。御年24歳。彼氏のひとりいたっておかしくない妙齢の女性である。にもかかわらずそんな浮ついた話は影ほども見えない。原因は先ほど述べたとおりだ。仕方ないとはいえ、私とて女、恋に興味がないわけではない。彼氏は欲しい。しかし、この性格で周りの人間には関わろうという人間は居なくなってしまった。男女共に。女にも敬遠されるということはいわゆる合コンなんてものにも誘われるわけはない。故に私には出会いの場がないのだ。かといって出会い系だなんて俗で怪しいものに頼るのは尻の軽い女たちがやるものだ。私はあいにくとそこまで柔軟な貞操観念は持ち合わせていない。ただ婚活だなんてものに精を出すほど適齢期というわけでもない。自分でふさいでる感も否めないが八方塞がりなこの状況を打破できる術を私は見つけられていないのだった。


 珍しく残業もせずまっすぐ帰路につく。その帰り道にはアフターを楽しむ人間達が多くいる。普通はこうだ。それは恋人同士であったり、同僚との飲み会だったり様々だ。目の前を通り過ぎていく男女の手がつながれているのを見て、私はため息をついた。かれこれ何年男性の手を握っていないのだろう。思い出そうとして思い出さなければならない程遠い記憶なのかと、また残念な気持ちになる。日が短くなりつつあるこのごろはこの時間になると既に暗い。店の明かりで照らされる女性たちの顔はあんなにも輝いているというのに、なぜ私はこんなに重いため息をついてむざむざと幸せを逃がしているのだろう。
 ふと視線を上げる。ビルの上にある巨大モニターにはいまはやりのアイドルがきらびやかに踊っている。キラキラとかがやいている。その輝きは照明に照らされているだけじゃない。彼女から発せられているんだ。まさに違う世界に生きる人間だ。私とは何もかも違う。
 名前はなんだったか。なんだか調味料を彷彿とさせるようだと思った。そんな名前。
 ぼんやり考えていたら誰かにぶつかった。

「!」
「あっ、!」

 どさっ。結構な音を立ててぶつかった人は倒れた。平均より大柄な私にぶつかったその人はいささか小柄に見えた。帽子を深くかぶっておりその顔は見えない。しかしその髪が長いことからおそらく女性だろう。私は慌てて声をかけた。

「すみません!大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫です〜。ちょっと手をすりむいちゃったけど、問題ありません〜」

 語尾をゆっくりと伸ばしてその人はいった。どこかで聞いたことのあるような声だ。しかし思い出すより早くその人はゆっくりと立ち上がり、服についた汚れを払った。

「こちらこそすみませんでした〜。急いでいたものですから、つい・・・」
「あ、いえ」

 深々と頭を下げられる。サラサラと長い髪の毛が重力にそって肩から落ちる。とても綺麗な髪だ。
 思わず見とれていると彼女は顔を上げてにこっと笑った。その笑顔はさっきモニターで見たことのある顔で。

「えっ!?」
「あら〜」

 私が驚いているとぐいっと思いもよらない力で引っ張られる。彼女は私の手を掴んで走り出した。

「えっ、ちょっと!」

 私の手を掴んでいる手は、私より小さくて細く見える。なのに力強い。いったいどこからそんな力が出ているのか。そして一体どこに行こうとしているのか。彼女は前を見据えて走り続けている。そしてビルの間に滑り込むように入った。
 久しぶりに走った私は息を切らしているが、彼女は乱すことすらなく様子を伺っているようだ。膝に手を付いた状態でかがんでいるから彼女の顔は私より上にある。その横顔は暗くて見えづらいが、おそらくあのアイドルだった。やがて周囲を確認し終えたのか、私に向き直りぺこりとおじぎをした。

「重ね重ねすみません〜。周りの方がざわざわしていたので、そろそろ気づかれちゃうかな〜と」
「あ、あの、アイドルのかたですよね?」
「はい〜。まよよと申します〜。以後よしなに〜」

 かぶっていた帽子を取りまたしても深々と頭を下げる彼女。間違いなく今大人気のアイドル「まよよ」こと「万葉那(まよだ)まよこ」である。

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