□情報屋さんのお姉さん
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 人間誰しもどうしても苦手な人間がいるものだ。それは折原臨也とて例外ではない。
 ここでいう臨也の苦手な人間とは平和島静雄のことではない。臨也にとって平和島静雄は天敵であり、人間愛を歌う臨也が唯一愛せないある意味で特別な人間ではあるが彼を苦手としているわけではない。彼の苦手な人間は身内にいるのである。

「ねえ、臨也。どうして僕には首があるんだろう?それはもちろん僕が平々凡々な平均的な人間であるからなんだけど、そうじゃなくて僕が言いたいのは僕がどうして人間なんだろうってことなんだ。だってそうじゃない?この池袋には首なしライダーも不死者と呼ばれる人もいたり、おおよそ人間とは思えない力を持った人もいるし、妖刀のうわさだってあるし本物もあるのにどうしてその中で僕は人間なんだろう。僕が人間であるからこうして非日常を愛せるわけだからそこはいいとしてもこれじゃあまりにも普通すぎると思わない?この池袋に僕と言う存在があることをどうやったら残せるだろう?ダラーズの創始者なんて肩書きは所詮はネット上でのものでしかない上に知っている人間は限られている。僕がそう仕向けたからだけど。でも人間なんてものはないものねだりな生き物だからこれは仕方のないことだよね。ところで首の話に戻るんだけど、その首はセルティさんのものなんだよね?とっても美人だなんていう僕の個人的感想はどうでも良いんだけど、その目を開かせることは可能なのかな?ねぇ、臨也?」

 表すならぐったり。
 そんな状態で一方的に話しかけられた臨也はソファに寝そべった。話し続けた彼女の声がまだ耳の奥で響いているような気がしてくらくらする。彼女の声は嫌いではない。不愉快になるような声ではない。臨也の個人的観点からして聞けば、彼女の声は可憐な少女の幼さを含んだ甘い声音だ。いつまでも聞いていたいような気にもなる。しかしそれは常時であって今のように徹夜明けの糖分の足りない疲れ切った脳にはいささか毒を含んでいる。その上勢いもあってまさにマシンガンのように話し続けるのだからまず話を理解するのにかなりの時間を要した。しかし彼女はそれも許さない。

「聞いてる?ねえ、臨也くん」

 爪まで手入れがされている細い指が臨也の頬をつつく。臨也が抵抗しないのをいいことにいつまでも続けてくるその手を、跡がつかないようにそっと握る。両手で包んでしまえば簡単に収まってしまうその小さな手の人物こそ、臨也が最も苦手とする人物だった。

「ちゃんと聞いてるよ、姉さん」

 名前を折原帝人。臨也の血のつながった実の姉である。

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