□夏氷の日
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 その小さなペンギンは、夏になるとみーちゃんが持ち出してくる。
 がさがさとやや荒っぽく冷凍庫から氷を大量にかき出しそのペンギンの頭に入れる。しっかりと頭を戻して天辺からついている取っ手を回すと腹のあたりで待ち構えているガラス器の上にさらさらと落ちてくる。少し積もったところで1度目のシロップをかけまた氷を削る。今いちど山になるまで氷を削り、またシロップをかける。みーちゃんの好きなイチゴ味のシロップ。

「いーくんまだー?」
「はいはい。今もってくから、テーブル拭いといてね」

 いわゆるカキ氷。
 この季節、みーちゃんはアイスよりもこの氷菓子を好む。いわく。
「カキ氷って言うのは日本に古くからある氷菓子なんだよ?日本人であるなら、アイスもいいけどやっぱりかき氷を食べないわけにいかないでしょ。アイスは冬でも食べようと思うけど、さすがに氷を冬に食べたいとは思わないじゃない」
と言うことらしい。もちろん俺がみーちゃんに対し異論を持つなんてことはないが。

「はい。イチゴですよ、お姫様」
「ありがと。て、いー君はまたみぞれ?」
「いや。これは雪」
「雪?またレアなものを」

 今はもう見ない「雪」と呼ばれるカキ氷。
 それは戦前のもので、氷に砂糖をかけるだけのものだ。みぞれとはまた違う。

「いいじゃない。フラッペだ何だって言われる昨今、この原始的な味が存在したって悪いことはないだろ?」
「あ、どっかのフルーツパーラーのフラッペがおいしいって杏里ちゃんが教えてくれたなぁ。いーくん今度行こうか」
「みーちゃん俺の話し聞いてる?…いいけどさ。あんまり冷やしすぎちゃだめだよ?去年はそれでおなか壊しかけたじゃないか」
「地球温暖化してるから仕方ないよ。加えて都心はヒートアイランドだし」

 そういってまたペンギンの頭に氷を入れるみーちゃんに、俺は小さくため息をついた。



7/25はカキ氷の日らしいです。

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