短編

□貴方の温もり
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無機質な部屋に響く沈黙

「‥‥」

部屋の主、アレルヤは涙を堪えるように口をつぐみ、ベッドの上で膝を抱えうつ向いている

「泣いてんのか?」

部屋の沈黙を守ったまま、言葉が響いた
それを聞き、アレルヤは首を振る
否定の意
事実、そのグレーの瞳から滴は一滴も溢れていない

「じゃあなんで、んなツラしてんだよ」

充血した瞳の下にはクマができ、肌が少し青白い
加えて髪は乱れ、飾り気のないシーツは皺だらけ
枕はほんの少し湿り気をおびている

「涙が、出ないんだよ」

部屋に声が響く
どこかやつれた声で、明らかに喉が枯れていた

「なんで‥‥」

声が震える
泣いた時の声に似ているが、瞳から涙は一切溢れてこない

「っ‥‥」

膝を抱き、頭を抱えこむ
今にも泣き出しそうな顔なのに、瞳は潤む気配すらない
それが酷く痛々しい

「ちったァ寝ろよ」

「‥‥うん」

同じ身体を共有する別人格・ハレルヤに促され、ベッドにうつ伏せになる
枕に顔を押し付け、グレーの左目を閉じる
一分もかからないうちに規則正しい寝息が部屋に響きだした

「さっさとそーすりゃいいんだよ、バァーカ」

再び部屋に響く声
腕に体重をかけ、体を起こす
だらりと力の抜けた首
瞼に力を込め、ゆっくりと頭を上げる
閉じられた両目には、涙が滲んでいた

「さすがはお優しいアレルヤ様。仲間のために泣きすぎて睡眠を忘れるとはなァ」





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