短編
□雨。
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普段見ることもない両手で顔を包まれ、驚きと照れで声が出なかった
と同時に、急速に顔が熱をもち始めたのが自分でもわかった
「なァに赤くなってんだよ?」
「ッ‥‥べ、別に」
「ふぅ〜ん?」
明らかにからかうようにニヤニヤと笑う神
「ッ‥‥」
誰のせいだ!という言葉は飲み込んだ
何をされるか分かったもんじゃないうえに、結果後悔するのは分かりきったことだ
「ナカジ」
「ッ‥‥」
混乱していて隙があったせいもあるだろう
いや、そのせいだと思いたい
間抜けな半開き状態の唇に、温かい感触
「〜〜ッ!!////」
両手で顔を引き寄せられたと思ったら
キスを‥‥された
驚きで見開かれた瞳に写るのは、自分の眼鏡に当たっている神のサングラス
そして、その奥にある閉じられた目と長めの睫毛
整った神の顔を、不本意ながら綺麗だと思ってしまった
「なっ‥‥何をッ‥‥///」
一瞬遅れて、肩を思いきり押して神を引き剥がす
恐らく今自分の顔はこの上ないくらい赤く染まっているのだろう
穴があったら入りたい
「いや、お前が可愛いから、つい」
「かわっ‥‥俺の何処が可愛いって」
「すぐムキになるトコ」
「〜〜〜ッ///」
神のペースに引き込まれている事が気にくわず、何よりそんな自分に嫌気がさした
「一生やってろ!!」
「へ?おい、ナカジ?!」
捨て台詞もそこそこに、扉を力一杯閉めた
ふと視線を落とすと、愛用のギターが哀愁を漂わせながら壁に寄りかかっていた
「おいナカジ〜〜、ったく‥‥」
「‥‥神」
「ん〜〜?」
ギターを抱き上げながら、神の背中が透けて見える曇り硝子に寄りかかる
無意識の内に、硝子越しに背中あわせになっていた
「もう何もしないなら‥‥歌ってやっても‥‥」
「俺、新曲聞きてぇな〜〜♪」
ここまでしておいて新曲が聞きたいなんて、図々しいにも程がある
「‥‥雨」
「‥‥は?」
‥‥こいつは自分の発言を覚えていないのだろうか
呆れた
「止ましたら‥‥聞かせてやってもいい」
「‥‥素直じゃねぇな」
「煩い」
ふと
冷たかった硝子が、温かくなっている気がした
「どーぞ」
パチンという指を鳴らした音が辺りに響いたかと思うと、まるでエスコートするかのような声
外に出ると、雨は見事に上がり、雲の隙間からの光で虹が作り出されている
その中に佇む神の姿が、いつもより眩しく見えた
「‥‥ふん」
自分の情けなさと辺りに立ち込める湿気をかき消すようにギターを掻き鳴らす
「(結局こいつのペースに乗せられたな‥‥)」
「何?」
「なんでも」
でも、こんな日常も悪くない
そんな風に思える
In my life
END
→後書き
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