*薄桜鬼*
□金平糖
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―金平糖―
近藤さんの周りをうろちょろしている女の子がいるんだよね。
本当に鬱陶しい。
だから苛めてみた。
遠慮がちに挨拶をしてくるから無視をすると、残念そうな顔をして下を向いていた。
僕が「殺すよ」と言う度にあの子はいつもびくっと肩を震わせる。
面倒だったから、炊事当番や掃除当番を押し付けたら何も言わずに引き受けてくれた。
僕が嫌がらせをする度に涙目になって、落ち込んでいる。
でも、僕が恐いくせに何度も話し掛けてくるんだよね。
最初はすごくガチガチだったのに、ここの生活に慣れたのか、最近は表情が柔らかくなった気がする。
他の隊士たちもあの子のことを警戒していたのに、今では気を許しちゃってるしね。
僕もそのうちの一人かもしれない。
一緒に過ごすうちに、色んな顔が見たいと思うようになってしまった。
もっと酷いことをすればどんな表情をするのだろうか。
逆に、喜ばせてあげたらどんな風に笑ってくれるのだろうか。
あの子は素直な性格をしているから、僕が何かをする度に表情をコロコロ変える。
それが面白くて僕も笑ってしまう。
でも、皆に同じように接するから、もっと僕を見てほしくて…
あの子が屯所に来た頃は鬱陶しいから苛めてたけど、今は僕だけを見てほしくて、ついつい構っちゃうんだよね。
僕のことだけしか考えられなくなればいいのに…
「沖田さん」
縁側に座って考え事をしていると、自分の名前が呼ばれた。
声のする方を見ると、千鶴が歩いてくる。
どうしたの?と言って、自分の隣に座るよう勧める。
話を聞くと、左之と買い物をしてきたようだった。
店にどんな物があったか等を楽しそうに話している。
左之のことだから、千鶴が喜びそうな所をたくさん案内したに違いない。
「へぇ、そんなに楽しかったんだ?」
千鶴は誰のものでもないが、自分以外の男と仲良くしていると正直面白くない。
また苛めてやろうかと考えていると、千鶴は持っていた包みを広げた。
中からは色とりどりの甘いお菓子が出てきた。
そして、親指と人差し指で一粒摘み、にこにこしながら沖田の前に差し出す。
「沖田さん、金平糖お好きでしたよね?原田さんにお店を教えてもらったんです」
「これを、僕に?」
沖田は目を丸くした。
「はい。沖田さん、最近体調が優れないですよね。だから、少しでも元気になってもらいたくて。好きな物を食べると幸せな気持ちになれるでしょう?」
「全く…君って子は―――」
本当に可愛いんだから。
沖田は千鶴の手首を掴み、自分の口元へと引き寄せる。
そして、わざと千鶴の指先に唇を押し付けるようにして金平糖を口に含み、最後にその指先をペロっと舐めた。
突然のことに驚いた千鶴は捕らえられていた腕を振り払い、真っ赤になった。
沖田はにこにこと満面の笑みを浮かべる。
「うん、甘い。よく覚えていたね。嫌いじゃないよ、金平糖。君のこともね…」
最後の言葉は聞こえるか聞こえないかくらいの声でつぶやいた。
そして、いつまでも頬を赤く染めて固まっている千鶴を覗き込み、今度は意地の悪そうにニヤニヤと笑う。
「ところで、千鶴ちゃん。何で赤くなってるの?」
「な、何でって…沖田さんが―」
途中、声にならずに口をパクパクさせる。
千鶴が動揺している理由はわかっているが、反応が面白くてからかってしまう。
「僕が?僕、何かしたっけ?ちゃんと言ってよ」
楽しそうな沖田とは反対に、千鶴は恥ずかしくて涙目になっている。
「だから、沖田さんが私の指を………」
「指を、何?……千鶴ちゃんもやる?」
そう言うと、沖田は千鶴と同じように金平糖を一粒摘み、千鶴の唇に自分の指先が触れるようにして食べさせ、口の中に金平糖を隠すと、そのまま唇をなぞっていく。
千鶴はその感覚に耐えられず、さらに頬を染めた。
「///…もうっ、やめてください。沖田さんなんか、知りません!」
そう言うと、赤くなったまま走って行ってしまう。
それを見送り、沖田は残された金平糖をもう一粒摘んで再び口に含み、くすくすと笑う。
「ちょっと苛めすぎちゃったかな。でも可愛い反応をするから。やめられないよね」
自分の体調が悪化しているという自覚はある。
自分にあとどのくらい時間が許されているかわからないが、できることならずっとあの子と幸せな時間を過ごしたい。
願いは、金平糖のような甘い時間を―――
☆あとがき☆
初の沖千小説を読んでくださり、ありがとうございます^^
沖千、大好物なんですvv沖田くん、大好きなんですvv
随想録でやられちゃいました///
さて、沖田くんに金平糖を食べさせられて赤くなって走って行った千鶴ちゃんですが、その後も動揺して…動揺しすぎて、ずっと沖田くんのことを考えていたと思いますww
まさに沖田くんの思惑通りですね^^
きっと、皆に「どうしたの?」ってつっこまれてますww