*遙か*

□ずっと、一緒に…
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―ずっと、一緒に…―





様々な戦いを経て、ヒノエと望美は想いが通じ合った。

戦いの後、八葉はそれぞれの生活に戻り、熊野別当であるヒノエは熊野に望美を連れて帰ってきた。

もちろん、自分の花嫁にするために。

だか、式はまだ挙げていない。

先に溜まっていた仕事を片付けなければならなかったからだ。

望美が熊野に来て一ヶ月、ヒノエの仕事も落ち着いてきた。

そして、ようやく本格的に式の話を進められるようになったのだ。

しかし、ヒノエには気がかりなことがあった。

望美は元の世界に帰りたいんじゃないか。

家族がいる所へ。

戦いの後、譲だけが現代へ戻った。

望美は「私はここに残るよ。ヒノエくんと一緒にいたいの」と言ってこっちの世界に残ってくれたのだ。

それから熊野に帰った後、望美はヒノエの屋敷にお世話になっている。

同じ屋敷に住んでいるが、ヒノエが多忙なため、二人でいる時間は限られている。

それでも会いたい。

だから望美はヒノエに合わせて起き、挨拶を交わす。

そして、夜はヒノエが帰ってくるまで起きて待っているのが習慣になった。

望美は「おかえり」と言っていつもとびっきりの笑顔をヒノエに見せてくれる。

ヒノエはその笑顔で一日の疲れが一気に吹き飛んでしまうのだ。

しかし、時折今にも泣き出してしまいそうなくらい淋しげな表情をしていることがある。

だから、結婚する前に後悔していないか確認したかった。













「いつ見ても凄い迫力!」

望美は久しぶりのデートで上機嫌だった。

今日はヒノエが休暇を貰えたため、二人で那智の滝に出掛けた。

「姫君に喜んで頂けて光栄だよ」

そう言うとヒノエは望美の手の甲に口付けをした。

ヒノエくんっ、と望美は頬を赤く染めた。

「真っ赤だよ、姫君。もっとしてやろうか?」

ニヤニヤと笑いながら望美を覗き込む。

望美は更に赤くなり、逃げるようにヒノエから離れた。

「残念。もっと、その可愛い顔を見ていたかったのにな」

望美はからかわないでよね!と怒り、いつもの二人きりの楽しい時間が過ぎていった。

そして、ヒノエはずっと気になっていたことを口にした。

「望美、元の世界に帰りたい?」

唐突に聞かれ、何で?と訳がわからないという顔をする。

「オレと結婚して本当に後悔しない?」

ヒノエは真剣な表情で望美に問い掛ける。

「どうして?ヒノエくんは私とじゃ、駄目なの?後悔するの?」

ヒノエは違うと答える。

「向こうの世界にはお前の家族がいる。だから…」

「だから元の世界に帰れって言うの?私はヒノエくんと一緒にいたいから…ヒノエくんが好きだからこの世界に残ることを選んだのに!」

望美の目から滴がこぼれ始める。

そして、ヒノエの顔を見たくないと走り出した。

ヒノエはすぐに望美を追い掛けた。

男の足に勝てるはずもない望美はすぐに追い着かれ、手首を掴まれてしまう。

ヒノエは「望美」といつもとは違う、余裕のない表情で叫ぶ。

「時々、淋しそうな表情をしているだろう?だから、帰りたくなってしまったのかと思って」

ヒノエは大切なものを絶対に離さないというようにぎゅっと望美を強く抱きしめた。

ごめんなさい、ヒノエくんをこんなに不安にさせていたなんて…

望美は違うよと顔を上げる。

「お父さんとお母さんに会えないのはちょと淋しいかな。でも、私はそれ以上にヒノエくんが大好きなの。だから、最近ヒノエくん忙しくて会える時間が少ないでしょ。わかっているけど、会えない時間が淋しくて…」

「じゃあ、姫君はオレに会えないから淋しそうな顔をしていたのかい?」

うん、という返事が聞こえると、抱きしめたまま右手で望美の前髪を掻き分け、おでこに口付けをした。

望美と出会った時、まさか自分がこんなに一人の女性に執着するとは思っていなかった。

一緒に旅をして、一緒に戦って…

知れば知るほど惹きつけられた。

そして、いつしか本気で好きになっていた。

その相手が今、目の前で自分のことが好きと言っているのだ。

ヒノエは望美から少し離れた。

そして、名前を呼ぶ。

「お前のことが好きだよ。これから先、また淋しい思いをさせることがあるかもしれない。だけど、その時は淋しい思いをさせた分、たくさんお前に『愛してる』って言う。淋しいと思っていたことが嘘だと思えるくらいにね」

ヒノエは服の中から何かをごそごそと取り出す。

「望美、ずっとオレと一緒にいてくれるかい?必ず、幸せにするよ。だから、オレの花嫁になってください」

そう言うと返事も待たずに望美の左手を取った。

返事はわかっているからだ。

そして、薬指に約束の印を付ける。

望美は自分の薬指にはめられた物を眺める。

「これ…」

「そう、結婚指輪だよ。受け取ってくれるかい?」

今度は嬉し涙を流した。

「ありがとう、ヒノエくん!私もずっとヒノエくんと一緒にいたい。私をヒノエくんの花嫁にしてください」

ヒノエは再び望美を抱きしめ、深く口付けを交わした。

その後、盛大に結婚式が行われた。












―後日―

「そういえば、結婚指輪ってこの世界にはないよね?」

望美が疑問に思ったことを口にした。

ああ、とヒノエが答える。

「将臣から教えてもらったんだよ。それに、望美は結婚指輪に憧れていたんだろ?望美が望むことをしてあげたいと思ってね」

ヒノエが自分を大切にしていることが伝わってきて嬉しくなる。

そして、たまには大胆なことを言ってヒノエを驚かせてみようと思った。

「じゃあ、今すぐキスして!私が望むことをしてくれるんでしょう?」

上目遣いにヒノエを見つめるが、言ってから気が付いた。

ヒノエはキスという言葉を知らないのではないか。

そう思った直後、唇が重ねられ、固まってしまった。

「今日は大胆なことを言うね。あ、これじゃ、足りない?もっと凄いことをしようか?」

「キス」のことも将臣が吹き込んだのだろう。

ヒノエは口付けをした後に、望美の身体に触れようとしてくる。

「ちょっ、ヒノエくん!私、そこまで言ってないよ」

くすくすと笑いながら望美をからかって遊んでいる。

相変わらず忙しい日々を送っているが、溜まっていた仕事が片付いたおかげで前より二人の時間が増えた。

休みの日はこうしてのんびりしたり、出掛けたりして過ごしている。

二人でいれば、それだけで十分幸せなのだ。














☆あとがき☆

お疲れ様でした^^

一応、プロポーズのお話でした!

望美が結婚指輪に憧れていたというのは完全に私の妄想です(笑)

そして、ヒノエなら何とかして用意してくれるんじゃないかと…

ヒノエくん、望美ちゃん、お幸せに☆

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