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「苗字名前……と言ったな。」
「はい」

再び、中門の前に全員で座る。苗字は仙洞田と向かい合い、姿勢良く正座をしていた。

「キッカー兼パンターと言うが……先程のキックを見る限り、パントよりもキックに集中すべきとは思わんか」

仙洞田は苗字を見据えて言った。苗字は動じることなく口を開く。
キッカーとパンターは"ボールを蹴る"という点では大して違いが無いように見えるが、求められる能力が違う。
高校レベルでは兼任することも少なくない。しかし、プロではまずありえない。神龍寺には元々パントを得意とする選手もいるし、あれほどのキックが出来るのならキッカーでいいのではないか。そう、仙洞田は問うたのだ。

「どちらも得意です。中途半端な仕事は絶対にしない」
「フム……」

苗字はハッキリと言い切る。仙洞田が顎を触りながら考え込んだ。

「あ゛? 何で女がいんだ」

ギッとバイクが地面をこする音がして、雲水の頭に手が置かれた。雲水はその手の主へ視線を向ける。思ったとおり、そこには"天才"の弟が顔を顰めて立っていた。

「……女?」

苗字が目を見開いてバッと振り返る。阿含はその小さい人影に向かって歩き、顔がくっつきそうなほど近くへ寄ってニッコリと笑った。

「どうかしたの?」
「……じ、自分は女ではありません」

苗字は、他の人ならばしてしまいそうなことは、つまり、震え上がったり、後ずさったりはしなかった。ただ、少し声を震わせて、まっすぐに阿含を見た。

「あ゛〜〜〜? テメー、女だろうがよ。身体つきでわかるに決まってんだろ」
「阿含」

監督の低く鋭い声が響く。阿含はかったるそうにそちらへ顔を向けると、苗字の頭をガッと片手で掴んでにやっと笑う。



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