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冬。寒さの真っ只中にあるこの時期、クリスマスボウルを終えた神龍寺は次のシーズンへ向けて練習を始めていた。校内ランニングを終え、水の入ったボトルを持って選手たちは休憩をとっている。

「鬼寒いっすね〜」

CBの一休が身体を縮こませながら言う。進級を控えた一年生達は、中学アメフトで話題になっている新入生の話をしていた。

「ま、阿含さん以上の人はこの先現れないだろうけどな。」

最後は結局、この言葉で終る。給水しながら1080段の階段を眺める雲水は、そのことをよく知っていた。
休憩終了まであと3分。去年、この時期に、"天才"の弟は、バイクでこの階段を駆け上がって飛び込んだのだ。スポーツ推薦枠に自らをねじこみ、ただ気に入らないからという理由で"凡才"を潰すために。
ボトルを傾けて喉に水を通す。ぐっ、ぐっ、と喉が音を鳴らした。雑念を頭から追い出すように、果てしない階段の先を見ることに集中する。
何かこちらに登ってくる影が見えた。一瞬、阿含だろうかと思ったが、バイクの速度ではない。今日は欠席もいないし、誰か訪れるような時間でも無いのだが。
雲水はボトルを持ったまま階段の近くへ歩く。人影は、こちらに気づいたようだった。目を凝らして見る。登ってくる速度がだんだん上がっていた。

「雲水!練習始まるぞ。」

先輩から声がかかる。はっとして戻ろうとするが、階段の人影が気になった。

「待って!あの!」

やはり練習のほうが優先、他事は気にしていられないとばかりに走り出した雲水を呼び止める声があった。雲水は立ち止まり、階段のほうへ目を向ける。やけに甲高い声だ。小柄な人物がこちらへ走ってくるのが見えた。
……走って?あの階段を登り終え、尚走る気力があるのか。

「ここの生徒さんですよね!」

雲水。もう一度グラウンドのほうから先輩の声がした。雲水は眉をひそめて目の前の人物を見る。

「急いでいるのだが、何用だろうか。」

グラウンドのほうを気にしながら雲水が問うと、少年は息を整えながら口を開く。

「アメフト部の、監督に会わせて下さい」
「……用件は」
「スポーツ推薦枠」

小柄な少年は目をギラッと光らせてそう言い放った。
雲水の脳裏に弟の姿が映る。

「待っていてくれ。」





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