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「苗字よ。こやつのいうことは、誠か。」

仙洞田がゆっくりとした口調でそう言う。苗字はもう一度仙洞田のほうへ向き直り、ギリっと歯ぎしりをした。

「……はい」

感情を押し殺したような声だった。チームにざわめきが広がる。

「喝!」

痺れを孕むほど鋭く仙洞田が喝を入れた。疑問や驚きを口々にしていた神龍寺のメンバーは、しんと静まりかえる。苗字名前はビクリともせずにじっと姿勢良く座っていた。どんな表情をしているのかは、雲水からは見えない。

「話を聞こうか」

いつの間にか苗字のそばから離れた阿含が面倒臭そうにあくびをひとつ漏らす。
目の前に白いものがフワフワと落ちてきた。雪だ。前に座る山伏も気づいたように空を見る。
中心に座る細い影が再び姿勢を正して顔をあげた。

「自分はクリスマスボウルに行かなくてはなりません。……必ず、今年に。
毎年クリスマスボウルに行くのはここだと聞きました。男子校というのも、聞きました。
でも、そんなことじゃ、諦められないんです。絶対クリスマスボウルに行かなくちゃならない。そのためなら、女として生きることだって捨てます。だから……」

全員が苗字を見つめる中、苗字は一度言葉を区切った。
雪で濡れた地面に両手を付き、頭をゆっくりと下げる。少年の……いや、少女の額が地面に触れ、ザリッと音を立てた。

「……お願いします。どうか、自分を、神龍寺に入れてください。クリスマスボウルに行くためなら、何だってします。お願いします、どうか……」

縋るような口調だった。微かに声が震えているように聞こえた。
さっきまで力強くそこに存在していた姿が、今はとても小さく頼りなく見える。中学のユニフォームと思わしき背番号11番に、雪が溶けて消えていく。

「雲水」
「……はい」
「こやつを、泥門へ連れていけ」
「……とは?」

監督の言葉の意図が読めず、雲水は眉を寄せる。

「泥門には、奴がおろうて……」

1人、思い当たり、雲水は頷いた。

「苗字。ついてこい」

苗字名前は弾かれたように身体を起こして仙洞田に頭を下げる。雲水は部室へ向かって歩く。その後ろを、小柄な少女が駆け足でついてゆく。
いつの間にか大粒になった雪が、チラチラと空を舞っていた。



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