雪月繚乱 第ニ幕《BL》
□四抄
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一番古い記憶と云えば、小学校の、多分一年生だった時だ。
授業が終われば、心配していつも様子を見に来たり、帰りは必ず一緒に帰っていた。
身体が弱く、学校を休みがちだったせいもあり、尚更心配だったのだろう。
そんなふうに弟を気にかける兄の献身ぶりは、校内に限らず近所でも美談として知られていた。
――安月は、それを不思議に思ったり、変だと感じたことは無かった。ずっとそれが当たり前だったのだから疑いようもない。
安月にとって、普通の兄弟というのはそういうものであると同時に、無二の愛情を向けられる唯一の存在だった。
だからこそ、その気持ちが否定された瞬間、世界は一変した。
「安月くん、好きな人いる?」
「うん。雪夜が好き」
「ううん。そういう好きじゃなくて、女子の中でって意味」
「……そういう好きじゃない、って? ボクはどんな好きでも、雪夜が好きだよ」
「やだぁ! それっておかしいよ。安月くん間違ってる」
間違ってる? いったい何が間違ってると云うのだろうか――。
雪夜を想う気持ちと、兄を慕う弟の気持ちというものの隔たりを、安月はその時はじめて自覚した。
5年生の終わりのことだった――。