雪月繚乱 in fantasy
□神の侵攻
1ページ/31ページ
「そなた、あのナーガの者を監視しているそうじゃな」
謹慎を解かれ、帝の執務室に呼ばれた月夜は、苦々しげな表情を十六夜に向けた。
「申し訳ありません。勝手なマネを……」
「責めているのではない。実は余も考えておったのじゃ。前帝の意向とはいえ、いつまでもあの者の処遇を決めずにいるのもどうかと……しかし仮にもナーガの要人、ヘタに余からは手が出せぬでな。有り体に云えば、そなたが先走ってくれて助かった」
十六夜は無邪気に笑い声をたてた。
それで思い出したが、彼は昔から月夜には都合よくたちまわるところがあった。
今ならそれが、彼なりの親愛の証であったとわかる。
「十六夜は、本当にボクに甘い……」
「なにか云ったか?」
月夜は静かに首を横に振った。
「近々処遇をくだす。この国を出れば、なにを企んだとしてももう手出しはできまい」
「じゃあ、イシャナは……」
十六夜がうなずいて椅子から立ち上がった。
「疑わしきは罰せず…というところじゃ。そなたが思うところあれば、それまでの処遇はまかせる」
月夜の肩に軽く触れ、十六夜は顔布の向こうで目を細めた。
――処遇、というか訊いておきたいことはある……けど。
夕刻を迎え、業務を終えた月夜は部屋に戻ると、書物の山からナーガの寄贈書を持ち出した。
それには、気になっていた節がある。
イシャナでなければ、おそらく他のナーガの人間に逢う機会など、そうないであろう。
「あいつに訊かねばならないというのも癪ではあるが、この際仕方ない」
夕げのあとに、イシャナのいる迎賓の館へ向かうことにした月夜は、ふと何かの気配に顔をあげた。