雪月繚乱 in fantasy
□二人の帝
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月夜は僅かにうつむいて、あごを左右にした。
「寝室に籠ったきりです。しかし、いまはとにかく大事ございません。それで……天照様。実はお願いしたいことがあって参りました」
天照の厳しい眼差しが、月夜の次の言葉を待ってすがめられた。
「天照様は……鍵……のことをご存知か」
ピクリと彼のこめかみが反応する。
天照もそのことを承知の上なら、十六夜をなんとかしてなだめることも頼み易かろう。
続ける科白を思い浮かべ、月夜は喉を鳴らした。
「帝が神を……神を目覚めさせようとお考えだとしたら、天照様は賛成なさりましょうか」
随分と長い刻が経ったように感じたあと、ようやく天照が重い口を開いた。
「それが帝のご意志なら、勅命には逆らわぬのが臣のつとめ……だが、あえて間違いを間違いと指摘差し上げるのも臣のつとめ」
月夜は胸が晴れるのを感じた。
思わず頬を緩ませて天照に詰め寄る。
「ならば……ならばお願いします! どうか帝を、帝をお止め下さい。神を目覚めさせたりなどすれば、今度こそ四神の国は滅びてしまうかもしれない。そのような不毛な戦いを、起こさせてはならりません……絶対に」
天照は厳めしい顔にくちびるを真一文字に引きしめ、月夜を見下ろしていた。
そして理解したのか微かに頷いてみせる。
「確かに神が復活したとなれば、他国が目の色を変えるのは必至。これ以上無用な争いで月読の命を失うのは自分とて本意ではない」
天照になら、十六夜もきっと耳を傾けるはず。
それに彼なら、白童の意志を継いで守ってくれるだろう。
「では……これを」
懐から取り出した鍵を、月夜は天照に差し出した。