雪月繚乱 第三幕《BL》
□生まれ変わるとき
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「階段、降りれないだろ」
確かに、まだ身体はぎこちなくて、階段を一人で降りるのは危ない。
――だから鍵を?
そう想いかけて、首を振る。雪夜は一階まで安月を運び降ろすと、キッチンへと行ってしまった。
水洗を流し、トイレから出た鼻先に、いい匂いが漂ってくる。つられて足を運んだ。
「うどん…」
ダイニングテーブルに、暖かい食事が湯気をたてていた。雪夜は戻ってすぐ、安月の為に昼飯を用意していたのだ。
昨日、あんなことがあったのに、雪夜はいつもと変わらずに安月のことを考えている。
――どうして。
「朝もろくに食ってなかっただろ。早く座れ」
安月は黙ってテーブルについた。これまでのことが夢だったのではと錯覚する。目の前に、好物の讃岐うどんがある。雪夜がよく用意してくれるものだ。
「…いただきます」
呟いて箸を取った。一本だけ口に入れて啜った。しょっぱくて甘い、絶妙なつゆ。軟らかすぎない麺が、舌の上で踊っている。
――美味しい。
言葉にはせずに、上目遣いで雪夜を見た。
やっぱり、彼はいつも通りの彼に見えた。