破壊神 第一・葦原のシオウ

□帝都ルダ、午前零時半
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 帝都ルダ。
 人間の国の中でも、五大国に数えられるギルダ帝国の都。街の中心には、ギルダの皇帝が住む巨大な城がある。
 だが、城と言うには少し語弊があるだろう。
 城は外観より攻めにくさを重視していて、美しさとはほとんど無縁だ。
 どちらかと言うと要塞に近い。

 この城には、敷地内に塔が十二本建っていた。
 一番大きな塔を囲むように三本。さらにその周りを八本の塔が固める。

 シオウは八本の塔のうち、北東に位置する塔の最上階にいた。
 この塔は全体が図書館として利用され、最上階はギルダの王室付き魔術師、サラマンドラの書斎になっている。

 つまらない。

 書斎は茶色を中心にした色合いで、アンティークの机や本棚は趣味のいいものだ。今座っている椅子も、クッションがふわふわしていて座り心地は最高。だが…

 つまらない。

 地面につかない足をぶらぶらさせながら、手元にある分厚い本をめくる。

 ギルダは軍事国家だ。兵器開発にも余念が無い。おまけに魔術も工業も発達しているため、たまに仙が舌を巻くようなものを造ったりした。

 おかげで、それらの設計図書を盗むため、毎度毎度シオウのような盗人が駆り出されるはめになるのだ。

 シオウとしては、それが実に面白くなかった。

 だって、コピー作って原本は置き去り。盗まれたのにも、気づきゃしない。盗まれたのに気づかないから、いつまでたっても同じ警備に同じ罠だ。
 どうせ盗むなら、難易度あげたほうが面白いし、おちょくりがいがあるもんな。

 ってか、王室付き魔術師が間抜けなんだよ。複製防止の魔術使えるやつとかいないのか?

 そんなシオウの願いが通じたのか、一年半前、ギルダの政権がかわった。

 うすぼんやりというか、なんとなく影が薄かった前政府。だが、新しい政府はかなりのやり手が集まっていた。
 シオウの言うところの間抜け政治家たちは、一掃され、新政府には老若男女問わず、力のある者たちがつどっている。

 男ばかりで、しかも中年以上の年代の者がほとんどだった、今までの政府と比べると、新しい政府は圧倒的に若く、女性も多い。

 新政府の筆頭は前皇太子、現在皇帝となったエイン・ギルダ。そして、 新しく王室付き魔術師となったサラマンドラだ。

 ギルダの魔術師は本名ではなく、動物や植物の名から第二の名を選んでそれを名乗る。

 サラマンドラの名は火の精霊、サラマンダーからきている(これを知ったとき、シオウは本物のサラマンダーをサラマンドラの寝室に送り込もうと企んだことがバレて、自宅謹慎させられた)。

 炎の魔術を得意とするところから、その名にあやかったらしい。

 だが、仙にとっての問題は名前の由来がどうのよりも、サラマンドラが、ギルダはじまって以来の天才的魔術師だということだった。

 複製防止など、四大元素に直接関係のない、いわゆる特殊型と呼ばれる魔術は、弱いものならともかく、人間や場合によっては仙ですら扱うのが難しい高等魔術の一つだ。
 特に、効果を術者が離れた状態で持続させることは、人間にとっては通常の魔術であっても難しい離れ業だ。
 よって、防犯装置や魔術の効果持続には、機械類で補うのが自然と定石になる。

 ただ、機械で魔術の効果を持続させることは出来ても、その周辺の空気が内蔵された魔力で少し変化するため、魔術師や少し訓練すれば、普通の人間でも見分けたり感知したり出来るようになる。
 そのため、隠しごとにはむかない。

 天才と言われるだけあって、サラマンドラは今までの、王室付き魔術師大勢の中に入るつもりなんてさらさらなかったようだ。

 複製防止も使えるし、魔術だけでなく機械にも精通しており、城のセキュリティーは格段に上がった。

 サラマンドラが王室付き魔術師に就任してから、盗みに成功した者はいないほどだ。

 実際、仙がギルダの機密を盗むのは、サラマンドラが就任してから初めてだった。

 シオウが望んだ通り、一年半でギルダの城は難攻不落、侵入不可能と言われる要塞になった。

 シオウも久しぶりに楽しめると、ウキウキしながら約二年ぶりにルダを訪れた。

 …一日前までは。
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