10/30の日記
22:05
天使のキャンバス。2
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東京音楽大学 A塔の三階
そこでは空間が裂けるのではないかと言うほど激しい演奏が行われていた。
窓から入る日の光に照らされながらオレンジ髪の少年、
黒崎一護は毎日此処で何時間も練習に励んでいる。
彼には素晴らしい才能があったが先月手を痛めたらしくピアノが上手く弾けない自分に苛々しているのだ。
苛々しながら良い演奏が出来る筈がない事は彼自身が一番解っている筈なのに、それでもピアノを叩く手は止まらなかった。
「っ!!!」
手首に鋭い痛みが走った
ずきんずきんと、煩い。
「…今日はもう無理…か」
そう言って舌打ちをするとピアノを直し鞄を持って立ち上がった。
人の気配がしたので入口の方を見ると
「一護君また練習してた」
「…雛森先輩」
部屋に入って来たのは三年生でオーケストラヴァイオリン専攻の雛森桃だった。
「ダメだよそんないっぱい練習したら…治るものも治らなくなるよ!」
「解ってるんスけど…止められなくて…
それより…先輩なんでこんなとこに?」
「はっ!そうだったそうだった…課題のプリント忘れちゃってたんだ!
それと…今日も一護くん病院でしょ?
私も今日友達の御見舞いに行くの良かったら一緒に行かない?」
見つけた課題のプリントを持ちながらにっこりと笑って桃は言った
別に断る理由も特に無い。
「…いいですけど」
「よし!!じゃあ外で待ってるから!」
そう言うと桃はしゅばっっと外へ出ていった
***
(桃…来ないな…)
毎週一回大学生活で忙しい中会いに来てくれる友人の雛森桃
彼女に会ったのは四年前の事
当時身体が弱く同じ病室に入院していた桃。
でも耳が聞こえず喋れなかった私は桃と顔を合わすくらいしか関わりがなかった。
私は人と話せないから、いつもひとりだった。
親だっていないし、話せない事で皆に迷惑をかけてしまうし、
私なんていない方がよかったんだってずっと思ってた。
だから
病院内で友達がいっぱいいて優しくて可愛い桃が羨ましかった。
でもある日
『ルキアちゃん』
何かの間違いだと思った、
だって、そんな事…
でも
でも今確かに彼女の細い指が
『ルキアちゃん、泣かないで』
ちょっと困ったような桃の顔
でもよく見えない。
涙で掠れて…よく見えない
『どうして…!』
『ルキアちゃんと話したくて頑張って覚えたのよ
これからは毎日おしゃべり出来るねっ
私達、友達だよっ』
(友達だよ)
ぶわぁって涙が溢れて止まらなかった、
目が真っ赤になって、それでも止まらなかった。
ありがとうって何回伝えても足りなかった。
その日から 桃は私の光になった
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