薔薇

□さて、どちらでしょう?
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 斉藤雄太は、俺が好き。



「あっ、あの」
「んー、なに」
 困ったように顔を歪めて、斉藤は俺に話しかける。
「えっと、お、俺。金田くんの、傍に居てもいいんでしょう、か……?」
「んー、なんで?」
「え、なんでって、それは……」
 斉藤の顔が、真っ赤に染まる。
 ちょっとの事で真っ赤になる斉藤は、すごく分かりやすい。
 逆に、いつも無表情の俺は、分かりにくいらしい。よく言われる。
「だって、この、前」
「あー。告白?」
 これ以上赤くならないだろうと思っていた斉藤の顔が、更に赤くなった。これだから斉藤は面白い。
「そ、……です」
 ほとんど聞き取れないくらいのか細い声だ。注意していないと、聞き逃してしまう。
「それがなに? どうかしたの」
 俺が何でもない事のように言ったら、斉藤が顔は真っ赤なまま、えっ、って驚きの表情で固まった。
「き、気持ち悪く、なかったですか?」
「なんで?」
「えぇ……っ」
 斉藤はいつも困ってばっかりだな、とオロオロする様子を眺めながらぼんやり思う。
 しばらくきょろきょろと忙しく視線をさまよわせていた斉藤から、
「だって、俺、男だから……」
 小さな小さな声がもれる。
 俯いた斉藤に、俺は、なんだそんな事かぁ、と思って視線を逸らす。
 目の端に、傷ついたような斉藤が見えた。何でだろう、と思った。
「ごめん、なさい」
 斉藤、謝らないといけないこと、したっけ。してないのに謝ってるよね。おかしい。
「なんで?」
「え?」
 三度目の“なんで?”を投げかけると、俯いていた斉藤の顔があがる。
「斉藤は気持ち悪いと思うの」
「え?」
「さっきから、『え?』しか言ってないよ斉藤」
「あっ……、え?」
「ほら」
 ちょっと混乱気味の斉藤が可愛くて、口の端が少しあがる。
 また、斉藤は真っ赤になった。
「俺は気持ち悪いって思わなかったんだけど」
 斉藤に目線を合わせて、話を続ける。
「斉藤が俺を好きで、嬉しいと思ったよ」
「……っ、ぅあ……っ」
「?」
「ず、るいです……っ、金田くん」
 なにが、って言ったら、分からないとこがずるいですっ、て真っ赤な顔を隠しながら、斉藤は今日一番大きな声を出した。
 やっぱり、そんな斉藤は可愛いなあって思う。
「俺、斉藤のほうが、ずるいと思うよ」
「どこがですか。絶対金田くんのがずるいです」
 相変わらず真っ赤なまま、泣きそうな顔で俺を少し睨む。
「だって、告白だって、そう、って一言で終わらせたじゃないですか。そんな反応されたら……俺、もう一緒にいれないかも、って不安で不安で。だからもう、諦めようって。なのに、ずるいです……」
 斉藤の目から、ひとつぶ。涙がこぼれた。
「まだ、一緒にいたくなる」
「じゃあ、一緒にいようよ」
「だからそれがずるいんです……っ」
 うわああん、と本格的に泣き出した斉藤に、一瞬ビクッとする。
 それからおそるおそる泣きじゃくる斉藤の頭に乗せた。
「だって俺、斉藤が俺のこと好きなの知ってたし」
「へ?」
 まだ涙はぼろぼろ出ているけれど、斉藤はぽかん、と口をあけて呆けた顔をした。
 そんな斉藤の頭を撫でながら、
「斉藤も、俺が斉藤の事好きなの、知ってると思ってた」
「へ、……え!?」
「でも、知らなかったんだ、ちょっと驚いた」
「そ、そそそんなのっ、言ってくれなきゃ……っ」
「うん、ごめん。好きだよ斉藤」
「ううう゛う゛、やっぱりずるいぃ」
 どぱっ、て斉藤の目が大洪水。有り得ないぐらいの涙。
「泣き止んでよ、斉藤」
「う、ぐずっ、むり、です。う、嬉しすぎてむりっで、ず……っ」
 そんなこと言って、ぐしゃぐしゃな顔で抱き着いてくる、斉藤の方がやっぱずるいと俺は思うんだけど、どうだろうか。





2012/04/28

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