薔薇

□リードは君の手に
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「柾耶さんっ、っ疲れっした!」
 柾耶、と呼ばれた一人の少年に向かい、世間的に評すれば“ガラの悪い”数人の少年がもの凄い勢いで頭を下げる。
 その中を無言で通り過ぎる柾耶は、不機嫌オーラ全開。眉間にいくつも深く皺が刻まれたその顔は、大抵の人間ならば目を合わせまいと避ける人種のそれである。



 柾耶が去った後、急にざわっと騒がしくなるその場。
「ひー、今日も緊張したぁ」
「マジ柾耶さんハンパねェよ、迫力!」
「俺、あの人の顔マトモに見れたことないぜ」
「今日もヤバかったな!! 超カッケェ」
 いつもの事だけど――と、少年たちは柾耶の事を熱の篭った言葉で評価する。
「十数人いる敵を一瞬にして倒したあの時、俺はあの人について行くと決めたんだ」
「俺は向かっていって腕一本で倒された時だな」
「うわ、ダセェ」
「黙れよ。柾耶さんに敵うわけねえだろフザけんな」
 笑いを交えながら、今日も少年たちが話すのは、いかにして自分が柾耶についていくと決めたのかということや、いかに自分が柾耶を尊敬しているのかということ。
「でも、どんな強敵が来ても、どんなに有名な不良を倒しても、無言っつーのが、またハンパなくカッコイイんだよな!」
「いやぁ、ここらシメてる本郷さん倒した時も、俺らが浮かれてる横で無言で去った柾耶さんに、俺は抱かれても良いと思ったぜ」
「テメーが良くても、柾耶さんが願い下げだっつの。テメーみてぇなムサいヤツ柾耶さんが抱くわけねーだろ。自分のツラ見て言え」
 ぎゃはは、と笑う取り巻きのうちの一人が、ふと口に出す。
「でもあの人、女興味ねーのかな」
「ああ、確かに今まで柾耶さんと付き合ったヤツら、全部女からで柾耶さんからのアクションまったくなかったしな」
「だよな。まあ柾耶さんも拒みはしなかったけど……」
「なんつったって、柾耶さんに近づいてくるのは美人ばっかだからなー。とはいえ、すぐに別れるけど」
 首を捻る集団の中から、しばらくたって誰かが言った。
「まあ柾耶さんに釣り合うオンナなんか、なかなかいねぇって事だろ」
「何しろ最強の男だからな」
 妙に納得した様子で、それからまた笑い声の含まれた少年たちの話し声が辺りに響く。

 こうして、少年たちの会話は、途切れる事無く続くのだ。
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