薔薇

□君がくれたもの
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 カナカナカナカナ……、ひぐらしの鳴く声が照りつける日と相まってクラクラする。
 夏の終わり。

 まだ、暑い。

 この街を去った日は、もう十年も前になる。
 街の景色はどことなく記憶と合致したりするけれど、ずいぶんと様変わりしていた。もうあの頃のように駆け回れるような野原も無い。
 それでも、俺の足は進む。二人で夢を見て、それから遠い先の約束をしたあの場所へ。
 あの、秘密の基地のあった場所。



「覚えてるの、俺だけかな」

 ――“十年後、もう一度”

「……あいつ、どうしてるだろ」

 太陽はまだ高い。日差しの眩しさに、目を瞑る。

 暑い。

 ざぁっと風の通り抜ける音。
 虫の鳴く声。
 ふいに、瞼の裏の光が消えた。ゆっくりと目を開くと、被さる影。
「久しぶり」
 十年、会っていない。それでも分かった。だって、それはもう、目の前で佇む青年はあいつでしかなかった。
「来てると思わなかった」
「俺も」
「約束しただろ」
「俺だって、約束破るやつに見えたかよ」
 あの時こらえたはずの涙が、ふいに零れた。
「なに泣いてんだよ、馬鹿」
「お前もだろ、馬鹿」
 泣き虫は治んねえな、とはどちらが言ったのか。



 君と夏の終わり。

 嗚呼これからまた、最高の思い出を君と。





2012/08/30

『Secret Base〜君がくれたもの〜』
歌から。
十年後の八月の日に書いたもの。一年放ってあったので載せておきます。

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