薔薇

□夏が見せた夢
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 科学で証明できないものは信じないタチだった。
 実際、この目で超常現象なるものは見たことがなかった。
 テレビで時たまやっている特集で、UFOだとかツチノコだとかの話題が流れていたのを見ても、そんなものは作り話か何かを見間違えたんだろうぐらいにしか考えたことはなかった。
 この時期によくある、幽霊の話をしているのを聞いても。きっと本人が居ると思うから見える思い込みに違いない、と。

 ――だが、よもやその俺にこんなことが起ころうとは。

「羽、田……?」
 俺は確かに見ていたのだ。
 目の前に、もう二十も昔になろうかという夏に確かに死んだ、友人の姿を。



「博康、元気にしてたかー?」
「あ、あぁ」
「いやぁお前もふけたねー、もう立派なオジサンじゃん」
「そういうお前は、……あの時のままだな」
 羽田の姿はあの夏のまま、だ。
「若々しいだろ? 羨ましいか、オッサン」
「失礼なやつだな、お前は。もう俺もそれなりに生きたんだ、ふけるのは仕方ない」
「相変わらずかったくるしーな、博康はー」

 いや、なにを和やかに話をしているんだ、俺は。

「羽田」
「ん?」
「羽田は、その、いわゆる幽霊、ってやつ……なのか?」
「あー、まあそう、かな」
 どうしたものだろう。
 俺の今までの価値観が覆されてしまったかのような今の状況に、頭が追いついていないのか、何処か夢心地で、ぼーっとしている。
 と、羽田の声が俺に問いかけた。
「どうかしたか、博康?」
「あっイヤ悪い、なんだかまだ、信じられなくてな……」
「ははっ、だよな。昔から博康はユーレイとか信じてなかったもんな」
 少し可笑しそうに、軽い声色を響かせる羽田。
 そうだ、幽霊なんてそんなものいるはずがない。そう思ってきた、言ってきたのに。
「でも、今目の前にお前がいる……」
 ボソッとひとりごとのようにつぶやく。
 その言葉に、羽田は片眉をさげ、冗談めかして言った。
「もしかして、博康の幻覚かもよ? 俺に会いた過ぎてありもしないもの見ちゃったとか。だとしたら俺愛されてるーぅ」
「お前……それは本人が言う言葉じゃないだろう」
 呆れて笑い声をもらすと、羽田は何故だか満足そうに微笑んだ。その顔に、どき、と心臓がはねた。
「うん。会いたかったのは、俺だ」
 そうして、羽田の手が俺の方へ伸ばされる。
「羽田?」
「良かった。博康は博康のままだな」
 俺の頬に、手が触れた――気がした。
 気が付いてみればいつの間にか俺ひとりで。
 頬に、僅かに残っている気がする、冷たかった体温。
 けれどそこにはもう、羽田の姿はなかった。

 本当に羽田が居たのだろうか。
 現実なのか、暑さが見せた幻か。もう、分からない。

 瞼を閉じてそこに居たはずの羽田を想うと、静かに心臓が痛んだ。





2013/08/15

お盆なので。

恋愛要素は少ないうえに中年と幽霊って需要大丈夫かな……。あ、表記が中年×幽霊ですが、あんまり受け攻め考えてないので。ぷらとにっくです、プラトニック。
基本、性的表現(おい)がなければ受け攻め表記してても私はあんまりそういうの絶対じゃないです。固定してません。

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