百合

□つまりバカップル
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「さぁーゆりっ」
「ん? どしたの、楓」
「寂しかったの。小百合に会えない時間が苦痛なの、寂しいよぉっ」
「私もよ、楓。楓の居ない時間は長く感じられてたまらない」
「さゆり……」
「楓、愛してる」
「そんなのっ、楓もに決まってるっ!」



「……っ、っとかってお前ら休み時間のたんびに会ってるじゃねーーか! 楓、毎時間うちのクラス来てはお前にベタベタひっついてるだろ!?」
「そうそうそうそう、なに!? 何処が長く感じられるの!? 一時間ごとにイチャイチャしてるくせに!」
 目の前で抱き合う小百合と楓。
 小百合と席の近い友人二人は、くわっと目を見開き、叫んだ。
「うるさいなぁ、楓との時間を堪能してんだからちょっと黙ってくんない? 公害」
 言葉ばかりか、小百合の顔が“邪魔だ”と如実に物語っている。
「貴様友人を公害呼ばわりするか!」
「小百合、目が超本気だから!」
 必死な二人の友人の声は、しかし小百合には届かない。
「ごめんね、楓。楓に会える数少ない時間なのに、余計なものに気をとられちゃって」
「ううん、いいの。小百合がそばに居てくれるだけで、楓は満足。なにもいらないよ」
「そんな可愛いこといわないでよ、キスしたくなる」
「してもいいよ。でも、ここじゃやっぱり恥ずかしいから、あとで、ね」
「……」
「……」
 友人達の冷めた目もなんのその、すでに二人の世界である。
 無駄なラブラブオーラを撒き散らすその世界で、ふと楓が、教室の時計を見つめた。
「もう、時間かぁ。10分は早いね」
 寂しそうに笑う楓。
「……っ! 離れたくないよ楓」
 ぎゅう、と楓の体を強く抱きしめた小百合に、楓はそっと体を押し返した。
「楓だって。でも、しょうがないの」
「楓」
「また、次の時間、ね」
「うん」

 楓の帰っていく姿を、見えなくなるまで、いや見えなくなってからも目で追う小百合。
 友人二人は、そんな小百合の背中に向かって。
「……いい加減なんなの、お前ら。一年時からだったけど、最近もっとうざさが増してるんだけど」
「付き合って二年目でそんなイチャイチャラブラブベタベタできるもんなの? なんなの?」
「楓、可愛いんだから当たり前じゃないの。馬鹿?」
「疑問を言っただけなのに!」
「馬鹿よばわり!」
「あんなに可愛い子に欲情しないとか意味分かんない。どうかしてんじゃないの? あ、でも手だしたら殺すからね!」
「出さねぇぇよ!」
「つか欲情とか言うな女子中学生が!」
 はぁぁ、とため息が二人分。
「楓だけ、クラス違うくなってからバカップルぶりが増した……」
「一緒のクラスだった時もそれはそれでうざかったけど、離れてからはもうね……」
 ぶつぶつ。
 お互いに、疲れるよね、疲れるよな、と言い合う横。
「会えないない時間の埋め合わせしてるだけでしょ」
 小百合の不愉快だと言わんばかりの顔があった。
「私たちを引き離す学校側に責任があるのよ、本当抗議してやろうかと思ったわ」
「ずごい理不尽だわ」
「理屈とか通じないよこの子」



 そしてまた、次の時間。
 何時ものように、愛を囁きあう小百合と楓の姿は、最早恒例である。

「ちぃっ、バカップルめ!」
「公共の場でイチャイチャイチャイチャすんじゃねえよ、うっとおしい!」
「負け惜しみかね、君たち」
「うぜぇぇぇっ」
「羨ましいわけじゃねえよただうぜえんだよバカップル!」
 ふふん、と髪をかき上げる小百合を前に、ギリギリと歯を食いしばった友人二人は般若のような形相をしていたが、きっと小百合には何の効果も無いだろうと思われた。





2011/05/22

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