百合

□温度差
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「…………」

 熱い。
 視線が、熱い。

「塚本、なに」
「みつ、可愛いなあって」
 今私の部屋には、私以外の人間が居る。
 それがニコニコ笑って、私に熱視線を注ぐこの塚本、という女の子。ちなみに、一応私の恋人、だ。
「はあ、そう……」
「本当可愛いよね。みつが恋人でわたし幸せもの」
 鼻歌まで歌って、ご機嫌な様子。
「なんかいいことあったの?」
「えー、分かる?」
 それはまあ、これだけ態度に出てれば。
「あのね、今日ある人からふたりお似合いだねーって言われたの!!」
「へえ」
「もー、反応薄いなぁ。わたしすっごい嬉しかったんだよ! お似合いとか初めて言われたの!」
 確かに、そうかもしれない。
 私たちがどう思ったところで、女同士で恋人だなんて、そんなに良い目が向けられる関係ではない。塚本との恋人関係を、とりたてて隠すようなことはしなかったが、ひとにわざわざいう事もなかった。
 だから私たちの関係を知っているのは少数で、それにどうにも私は冷めているように見られるらしいから、そんな少数の人達に「本当に付き合ってるの?」と聞かれたことも何度かある。『お似合い』なんていうひとは今まで居なかったのだ。
「ねえねえ、ある人って気になる? 気になる?」
「まあ、少し」
「えっとねー、じゃあ教えてあげます!」
 大仰に手を広げると、じゃーん、とよく分からない効果音を自分の口で言い、塚本はその人の正体を言った。
「みつのお姉さん!」
「……姉さん?」
「うん!」
 そういうと、嬉しそうに何故かぎゅうっと抱き着いてきて、塚本は自分の頬を私の頬に寄せた。
「え、姉さんと話したの?」
 ちょっとばかり動揺して塚本に聞く。
「うん。さっきトイレ貸してもらったでしょ? それからこの部屋まで帰ってくるときに、お姉さんに会ったんだよね」
 ああ、あの時かと思い返す。
 元々テンションの高い塚本だけれど、そういえば、部屋に戻ってきてから更に高くなっていた。そういう事だったのか。
 それから続けて塚本は、その時姉さんと話した内容まで教えてくれた。

『あっ、お姉さん! お邪魔してまーす』
『ああ、塚本さん。……どう? みつと上手くやってる?』
『ハイッそれはもう!! ラブラブですっ』
『そ、良かった。ふたりお似合いだから、私嬉しいのよ』
『おおおっお似合いですか!? お姉さんそう思いますか!?』
『うん。だからこれからもみつと仲良くやってね』
『もちろんですっ!! わぁい、お姉さんのお墨付きもらったー! みんなわたしたちのこと、お似合いとか言ってくれないんですよぉ』
『みつが分かりにくいからね。でもね、あの子がメールひとつひとつにちゃんと返事したり、誕生日とかのイベント気にしたり……そんなの今までなかったの。よっぽど貴女が好きなのよ』
『えっえっホントですか!? ホントですか!?』
『うん。貴女の明るさとかが、あの子にそういう影響与えたんだと思うの。貴女たちの温度差が、とても丁度いいと思ってる。……みつをよろしくね』
『はい!!』

「って感じ! お姉さん、みつのことよく見てるんだね!」
「……っ」
 普段顔色の変わらない私の顔が、こうまで赤くなったのは初めてかもしれない。
 みつ真っ赤ー、可愛い! なんて横で塚本が言ってたけど、そんなの気にしていられる状態じゃありませんでした。





2013/05/15

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