百合

□君ハ知ル
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「ど、どしよ春音」
「どうしたの」
「告白、されちゃった」
「……なんて?」
「こくはく、された……」
 呆然とした様子で呟く日奈子。
 そんな日奈子を見て、私もまた、言葉を無くしていた。



 放課後、教室で日奈子を待っていた。いつも通り、二人で下校するためだ。
 日奈子がどこへ行ったのかは知らないが、随分と遅い。教室に残るのは、最早私のみになっていた。
「どこ行ってんだか……」
 溜め息をはいたその時、扉をあける音がした。
 教室の後ろを振り返ると、そこには日奈子の姿。
「あ、日奈子、遅かったね」
「……どう、しよう」
「え?」
「ど、どしよ春音」
「どうしたの」
「告白、されちゃった」

 ――冒頭に至る。

「それ、仲良いやつ?」
「あんまり……。見たことある、くらい」
 まだうろたえている日奈子に質問していくと、どうやら日奈子に告白した彼はふたつ隣のクラスで、大した関わりは今までなかったようだ。
「わっ私オタクだよって、言ったんだけど……」
 気にしない、と言ってくれたという。
 流石の日奈子も、「腐女子です」とまでは言えなかったらしいが、その様子でいくと、彼はそんなことも気にならないだろう。
「そいつのこと、好きなの?」
「わ、分かんない」
 ふう、と息を吐いた。それから、諭すような声色で日奈子に言う。
「じゃあ、やめときなよ」
「そうするべき……? なのかな、でも、」
 でも、という言葉にピクッと反応する。
 険しくなった私の顔を、しかし日奈子はうつ向いたままで見ていない。
 そのまま言葉を続け、
「でも、あんなに……」
 必死に好きって、伝えてくれたのに……と日奈子が拳を握った。
 沈黙が流れる。
 どうしよう、と再び日奈子が困った様に呟いた、その時。
「……っ断って!」
 大きな声を出した。
 意図してじゃない、だけど私の中の冷静な部分が止める前に、声は出ていた。
「はっ、春音……!?」
 日奈子は驚いた顔をしてるけれど、私の言葉は止まらなかった。
「断ってよ、日奈子」
 きっと、いつもよりも低い声で私は呟いた。
 睨み付けている、という表現が相応しそうな視線を向けていたかもしれない。
「は、春音?」
 いつもと違う私の様子に、日奈子は焦りを見せる。
「いやなの、日奈子。日奈子が、とられちゃう、日奈子が私の隣からいなくなるなんて……嫌なんだよ」
 その台詞を言い終わる頃には、口調はもう弱々しくなっていた。
「お願い、日奈子」
 つけ加えるように呟いた言葉は、懇願の色を纏っていただろう。
「な、なんで、まだ付き合うって決まってないし、春音の傍から離れるなんてこと……」
 おろおろしながら、日奈子が私の顔色を伺うように呟く。
 その言葉の通り、きっとこのままならば日奈子が私の傍から離れることはないだろう。付き合うのも、決まってるわけじゃない。
 だけど、違うのだ。日奈子は、告白してきた子のことを、恋愛対象として意識した。
 それがたまらなく嫌だった。
「……っ好き、好きなの、日奈子」
「え?」
「私は、あんたが好きなの、だから嫌だ、絶対いや、そんなやつの事考えないで。私の隣居てほしいよ、日奈子……っ」
 日奈子は戸惑いを隠せない顔をしていた。
 きっと、いつもと違う私を見て動揺しているはずだ。
 でも、仕方ない。もう抑える事なんて出来なかった。



 日奈子は、私の気持ちを知って、何を思っただろう。
 これからどうなるかなんて、分からない。
 ただ、日奈子が私の傍から離れていく、そんな最悪な結末だけは、想像したくなかった。





2013/07/12

最早シリーズになっている気がする、『君ハ知ラズ』の二人。続きが出来たので載せてみました。
ヘタレな春音がついに告白しましたね。
これで日奈子が意識しだして、最終的にくっつくといいですね(

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