百合

□同性愛に関する10のお題
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 好きだったよ、と貴女は言った。

「好き“だった”……?」
 私の口から思わず出た疑問に、彼女は目を伏せる。
「うん、好きだった」
 もう一度、ゆっくりと彼女の唇が繰り返す。
 ねえちょっと待ってよ。私、貴女の言ってること、解りたくない。
 けれど、解るでしょ? と言いたげな彼女の目。その目を見た私は、どうしようもなくなった。
 私は顔を歪ませて、彼女に尋ねた。
「もう、好きじゃないの?」
「……う、ん」
「貴女のなかに、私への『好き』は、もうないのね」
 そう言ったところで、彼女の大きな瞳から、ぼろっと涙があふれでる。
 ぼろぼろ。止まる気配などなく、大粒の涙が彼女の頬を伝う。
「うそよ、“好きだった”なんかじゃない。好き、よ」
 止まらない涙をこぼしながら、彼女は言った。
「でも無理なの、ごめんなさい。……ごめんね」
 彼女は乱暴に上着の袖で目を擦る。
 ああ、だめよそんなにしたら腫れるでしょう。言おうとして、それは私の口からは出てこなかった。
 ただただ、間抜けに貴女を見つめるばかり。
「愛したのは、貴女だけだったわ」
 無理矢理に笑顔を作った彼女。
 抱き締めて、私の傍に居てよと、そう言えたらなんて良いだろう。
 だけど、駄目なのだ。彼女は決意してしまった。彼女の決意を無駄にする勇気は、臆病な私にはなかった。

 何故、貴女と私は幸せになれないのだろう。
 たかだか同じ性であるというだけなのに、どうして――。

「例えば、別の性別だったら良かった?」
 呟いた私の声は、もはや貴女には届かなかった。





2013/07/07
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