百合

□世界はひっくり返る*01
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 校門の前に立ち、目的の人物を目を凝らして探す。
 知らぬ間に通りすぎていかないように、それはもう見え得る範囲の隅々まで目を走らす。誰に不審がられてもかまわない。
「あ!」
 待ち望んでいた人物を目でとらえた私は、ブンブン手を大きく振って、その人に呼びかけた。
「里美さんっ、今帰りですかー!?」
 私が待っていたその人、里美さんの歩みが止まる。
 自分の名前を呼ばれたからか、私の方を見て、
「……」
「ちょっと! 何でそんな嫌なものでも見たって顔してるんですかー」
 虫に目を向ける時のような顔をした。ちなみに里美さんは虫がきらい。
「嫌なもの見たからよ」
「え、それって私です?」
「あんた以外誰がいるの」
「里美さんヒドイッ!」
 毎回の事ながら、里美さんの私に対するあたりはキツイ。
 まあそれでもそんなことくらいじゃめげないけど。

 気を取り直して、再び里美さんに尋ねる。
「あ、で、結局今から帰るんですかー?」
「帰りだけど、亜子になんか関係あるの」
「私も帰ります! 一緒に帰りましょうよ!!」
 私が校門で待っていた理由はこれなのだから、里美さんに会えた今、絶対に達成しなければならない。
「……」
 里美さんの目は、厳しいけど。
「またその顔! やめてくださいよお、いくら私でも傷つきますってばっ」
「あんたMじゃない、喜ぶでしょ」
「ちょ、いやそれ誤解なんですけどー……」
「じゃあなんでニヤニヤしてんのよ」
「そりゃあ愛しの里美さんと会えたからに、……って! 里美さん……ちょ、人に尋ねといて無視して帰るってヒドくないです!? しかも一緒に帰りましょうって言ったのに、ちょっと里美さんってば! 待ってくださいよう!」
 里美さんの後ろを追いかけて、にこにこ笑いながら腕に絡みつく。
 そしたら無言で振り払われた。ひどい。
「里美さんのばかー! 私こんなに里美さんが好きなのにい」
「だって歩くのに邪魔」
「ああ里美さんてばクール! すてき!」
「黙れドM」
 睨まれちゃった。でも可愛い。
 睨んでくる顔って結構そそられるから、毎回耐えるの大変なんだけどなあ。

 ふと気づくと、また里美さんは先に歩き出していて、背中しか見えない。
「あっ、また置いて行こうとするー! 里美さん速いよ! 待ってくださいーっ」
 里美さんの背中を追いかけながら、里美さん早く私に落ちてくれないかな、と思った。





2012/07/15

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