クリームソーダ

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「今学期初の体育やね〜」

「も、む、無理…動け、へん」

「夏休み明けやから体力落ちとるね」




何で外周そうからなんや…くそ。
体育祭へ向けて走り込みとか、1学期最後と何も変わらないやんか。もっと楽しいやつやりたいわ。

しかも運動部の子は、夏休み明けなんか逆に体力つけて戻ってきとるし。
前より早くなっとるとか何事。






「「「財前くーん!!」」」






光を呼ぶ女の子たちの声が響く。
テニス部ということもあり、体力には自信があるらしい。長距離走を難なくこなしている。

かっこいいなぁ。光が彼氏かぁ…。

そういえば、まだ誰にも言っていない。
友達に伝えようとした、その時。






「速ーい!!」






私たちの目に飛び込んだのは、陸上部の男の子。
あまりの速さに目を奪われた。

わ、かっこいい。
この間まではそんなに速いと感じなかったのに。一生懸命部活やってたんだな。

彼を見続けていると、後ろからコツン、と頭を叩かれた。






「誰見てんねん」

「わ、光!お疲れさま」

「ん。で、誰見てるんや言うてんねん」






こ、こわ……っ!!


禍々しいオーラを放った光が、目の前に。
隣の友達を見れば光のかっこよさに目を奪われていて気付いていないようだ。かっこいいって罪だ。

眉間に皺をよせて、腕を組み私の発言を待っている。
暑さだからなのか冷や汗なのかわからないが、ダラダラと汗が流れ出た。




「こ、怖いよ、光〜!ちょっと陸部の子見てただけじゃん」

「ほ〜ぉ。見惚れてたと」

「み、見惚れてたというか…」




いや、見惚れてたとしか言えないのだけど。

光の額に青筋が見えた。
やばい超怒っとるやん。






「お前、自分の彼氏放っといて何や。浮気か」

「「「っはぁ!!?」」」






クラス全員が、私たちの方を見た。
友達も、すごい勢いで。

こいつやりやがったな、という目で光を見れば、知らん顔。
ひどいわほんま、言ったの光やのに…!!




「な、嘘やろ!?いつから!?」

「付き合ってるとか、ほんまなん!?」




男女問わず、みんながこっちに近寄ってくる。

光は私の肩に腕を回して、グイッと引き寄せた。







「これ見てもわからんか」






後ろから私を抱きしめる形で、みんなにそう言って見せた。

女子たちからは悲鳴ともとれない奇声が聞こえ。
男子達からは怯えたような目で見られた。え、何でや。




「海音、ずるい!ほんまずるい!」

「財前くん独り占めとか、羨ましすぎるんやけど!!!」

「やべ、財前の目本気や…」

「ほんまや…今まで以上に徹底的に釘刺されるで、これは…」




ジリジリと詰め寄ってくる女子たち。
その顔があまりにも怖くて、私は震えあがった。

後ろにいる光が「ブスや」とポツリと呟いた。
いや、そうかもしれへんけど!みんなすごい顔しとるけど!言っちゃあかん空気読んで!





「…先生ちょうど職員室行っとるし」

「、え?」

「サボるか、授業」

「っわ!!」





いつしかと同じように、お姫様抱っこ。

そして走りだす光。

さっき長距離走やったばかりなのに。すごいな。
後ろからクラスの皆の声が聞こえる。







「何笑ってんねん、気色悪い」

「えへへ、なんか嬉しい」

「――…何やそれ」







微笑を漏らした光はやっぱりかっこよくて。

ドキドキと私の心臓は高鳴る。


くすぐったいけど、なんだかすっごい幸せ。


私は彼の首にまわした腕に、少しだけ力を込めた。







END

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