クリームソーダ

□06
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あれから数日。夏休み突入。

光には、会ってへん。




「……会いたい、」




ふと、そんな言葉が口から出ていた。


初めてのキスやった。
ファーストキスやった。

初めてちゅーする時は、絶対絶対好きな人とするんやって、決めてた。
それが、幼馴染の光。


――…正直、とても幸せやった。


ふわふわ、ぽわぽわ。
キスされたまま強く抱きしめられて、男やと思った。

力の強さもそうやし、身長も同じぐらいやったのが頭1つ分違くなってて。
抱きしめられたら私の体がすっぽり光に埋まってしまいそうな。

そんな、感じ。

思い出すだけで、顔が熱くなる。




「ほ、ほんまに…してしもうたんや、私たち」




両手で頬を押さえてベッドの上をゴロゴロゴロゴロ。
私は光のことがとても好きやったんやと、実感したあの日。
きっとこれからもずっと忘れられへん思い出や。

ふぅ、と溜め息をついて天井を見つめる。




「…あれから音沙汰なしとか」




アイツ鬼畜か。
部活忙しいんやからしゃあないねんけど。


その時、下から私を呼ぶ声が聞こえた。
お母さんと光ママの声やった。

階段を下りれば、やっぱり今で楽しそうに談笑しとる2人がおった。




「今暇しとるやろ」

「忙しいわあほ」

「光ママから光に届けてほしい言うてにお願いやで」

「ごめんなぁ海音ちゃん。これからおばさんお仕事いかなアカンのよ。代わりに差し入れしたって」




差し出されたビニール袋。
その中には美味しそうなはちみつ漬けのレモン。

光ママのお願いやったらしゃあないわ。夏休みやけど学校行ったろ。
笑顔で頷いて、私は部屋に戻って制服に着替えた。
自転車に跨り、私は学校へと向かう。


光と、会う口実と時間が出来たのが、素直に嬉しい。






「こ、こんにちはー…」






…テニス部って、こんなハードやったんやな。

コート内を見て唖然とした。


ひたすら走り込み走り込み走り込み。
夏は練習し時やとどのスポーツでも言うけど、まさかこんな炎天下で。

話しかけるタイミングが…






「あれ?財前の幼馴染とちゃう?」

「っけ、けけけ謙也先輩!!」






その前に現れたキラキラ笑顔の謙也先輩。
あ、憧れていた謙也先輩が、今、ここに…!!
てか私の存在知っててくれたんや…感激。

ヘラリと何とも人の良さそうな笑顔を浮かべて、コートの柵のドアを開けてくれた。




「財前に用事なん?」

「あ、いや、テニス部に差し入れを…」

「え、何々?――わ、はちみつレモンやん!!俺大好きやねん!」




おおきになぁ!ときらっきらの笑顔で嬉しそうに。

そ、そんな素敵な顔されたら…っ。

くらっと少し目眩がした。
そもそも中学入学した時からずっと憧れてた謙也先輩とお話出来とるなんて、夢みたいや。
光、謙也先輩とめっちゃ仲ええのに紹介してくれへんかったから…。






「…何してんねん」

「っわ!光!」

「てか、それうちのオカンの。なして謙也さんに渡しとるん、俺に渡せや」

「ご、ごめんなさい…」






ぬっと後ろから現れた光。
その表情は怒りを纏っていた。
何とも不機嫌そうに寄っている眉がその証拠。

ビクビクしながら謝っても機嫌直らず。
空気に耐えかねてか謙也先輩が明るく言葉を出してくれた。




「まぁええやん!近くに俺がおったから渡したんやろうし!せやろ?」

「は、はい…」

「届けてくれてほんまありがとう!美味しく頂くでー」




白石ー!と謙也先輩は差し入れを持ったまま、ものすっごいスピードで白石先輩の元へ向かった。
わぁ、足めっちゃ速い。かっこいい。

うっとりと余韻に浸っとると、後ろから殺気を感じた。




「ひ、光…?」

「……何」

「お、怒っとるよね…?」




さらに眉間の皺が濃くなっとる光。
涙が出そうや。






「…やねん、俺は散々――」

「え?」

「もうええわ。帰れ」

「え、あ…うん、」






そう言ってコートの中に入っていった。

――…せっかく、会えたのにな。

全然しゃべれんかった。寂しい。
まぁでも、夏休み中たくさん会えるんやろな。
いざとなれば、私が光の家にお邪魔すればええ話やし。うん。


それから数週間、私と光が顔を合わせることはなかった。






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