クリームソーダ

□05
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「あちゃ〜…すっかり遅くなっちゃったね。ごめんね、光」

「ぜんざい」

「何でぜんざい奢らなあかんの」




私たちはそんな会話をしながら学校を出た。

いつもは1人の帰り道。
久しぶりに隣に並んで家に向かうのがなんだか懐かしいのと恥ずかしいので変な気持ち。
何だか小学生の頃みたいや。




「ふふ、」

「なんや気色悪い」

「何か、懐かしいなぁ思うて。よくこうやって帰ってたやん、いつも光が待っててくれて…あ、その頃は手も繋いどったな」




懐かしいなぁ、あの頃は光ももう少し可愛げがあったりして。
無愛想なところは変わりなかったんやけどなぁ。


私がクスクスと笑っとれば、トン、と指先が当たった。
その後するりと、私の手を光が握る。


少し驚いたけど嬉しくなった私は、彼の手を握り返した。

光の顔を見たけど、彼は何事もないように歩いてて何だか悔しい。
いつも余裕やな、この人。






「あはは、本当に小学校に戻ったみたい」

「……は?」

「こうやって手、繋げて。嬉しいなぁ」






少し軽く手を振ってみた。
光は何にも言って来ない。

光はあの頃から何にも変わらない。
優しいところも、少し厳しいところも。
何だかんだ、私を甘やかしてくれるところだって。

何にも変わらない。






「――…ほんまに、そう思っとるん?」




夜の静かな帰り道に、光の声がよく響いた気がした。






「それなら思い違いやで、海音」

「え、ひ、光?」




少しずつ、私の方に近づいてくる。
それに伴うように、私も距離を一定の空けようと少しずつ離れる。

だんだん、私と壁の距離が、なくなって行く。




「あの頃とはもう違う。俺も、お前も」

「か…変わらないよ、何も。変わってない。だって光はいつも優しいやん」




とうとう、私の肩に壁が当たった。
前に進むことが出来なくなって、その場に立ち止まる。
仕方なく、光と対面して、彼の顔を真っ直ぐに見上げた。


…確かに、身長は光の方が全然高くなってしもうた。
少し前までは同じぐらいの目線で話しとったのに。何だか寂しいと思う。

光は大袈裟なくらいに溜め息をついた。






「…お前な、ほんまに少しは自覚しろ」

「何を?」

「俺らは、男と女やってこと」






…意味がわからない。

前からわかっとるわ、そんなん。
私のことそんなあほ扱いしとったんか、ほんま酷いやっちゃ。


眉を寄せれば、光も眉を寄せた。
もちろん、私と違う意味が含まれとるのはわかった。






「そんなんわかっとるわあほ。私についてへんで光についてるもんがあるやろ」

「そういう話やない」

「なら、どういう意味やねん。訳わからん」






帰ろう、と私が歩き出そうとするのを、光は止めた。

反抗的な目で、光のこと見たと思う。最初は。
でも、光の目を見た時、何も言えへんかった。


切なげで、瞳が潤んでて、眉は相変わらず寄せたままやった。

何かもどかしそうな、焦れったそうな、イライラしてるような。


いろんな感情が込められてて、不思議な感じがした。
胸がキュウッて締まって、苦しい。






「ほんま何やねんお前。付き合う意味全然わかっとらんやろ」

「……やって幼馴染やってんで?そんなすぐになんて、」

「俺は、ずっと女として見て来たんや。幼馴染で、近くにいたとしても」






切なくて、切なくて。

目を合わせ続けたら胸が張り裂けそう。

胸が苦しいのに、目が反らせなくて。

光のが移ったのか何だか私も切なくなって。






「昔のままやない。ただの幼馴染みやないねんで、俺ら」






スッと私の頬に触れられた光の手はゴツゴツしとって、男やなぁって思った。


少し顔を上にあげられて、そのまま光の口と私の口がゆっくり合わさって。
ビックリし過ぎてギュッと目を瞑った。

頭がふわふわでぽわぽわで、おかしくなってしまいそう。
その分、気持ちよくて幸せで。



キスする前に感じた、光に対しての『好き』。

あれは、いつもの感情とは、全く違った。







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