クリームソーダ
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教室に帰ったら質問責めだった。
やけど彼女だとは言えなくて、光が優しいからやと伝えた。
それに光は不服そうやったけど、口を出してこないのは私のことを気遣ってくれてるから…なのかな。いつも嫌がることはして来ないし。
「せやけど、付き合ってもおかしくないよね〜」
「え?」
「だって2人いつも仲良しやし。財前くん、海音以外の女の子とあんま話さんしなぁ」
そうやろか。話してる思うけどなぁ。
私に対しては、家族みたいな感情持っとるからやろ。たぶん。
「財前くん、海音のこと大切に思うとるよ」
「え、そうかなぁ。でも確かに優しいで」
「せやろ?やなかったら今日もあんなふうには…」
「え?」
「こらっ!言うたらアカンよ!」
そう言った2人はゆっくりと光を見た。私も光の方を見る。
こっちを睨んでいた。
私たちは慌てて目を反らした。
「な、なんか光めっちゃ怖かったんやけど…」
「き、気のせいやできっと…」
気のせい…なはずないと思うんやけど…。
ひ、久々に見たなぁ、光のあんな顔。
前に見た時は、確か、確か――…。
――…何だっけ。
あれれ、思い出せないや。忘れちゃった。
「海音、」
「ん?」
「教室で待ってろ」
「え、何で?」
学校が終わった放課後。
みんなが部活へ急ぎ足で向かう中、いつも一番に出て行く光が私の元へやってきた。
「ええから待ってろ」
「でも私、今日は部活な「ええな」…うん」
今日は部活ない日なんやけどなぁ…うーん。
今日ははよ帰ってお菓子作りたかったんやけどなぁ。
やけど光が少し笑って私の髪をくしゃりと撫でたから。
それがほんの少しだけ、ちょーっとだけ嬉しそうに見えた気がしたから。
気をよくした私はへらりと笑って見せた。
「何笑っとるん」
「何もな〜い」
「…変な奴」
言ったら…きっと光怒るもん。黙ってよう。
「光がテニスしとるとこ、始めてみるかも…」
思えば、一緒に帰るのも小学校以来なんや。
隣の家やからしょうがなくってこともあったと思うけど、光はいつも私の教室の前で待っててくれとった。
友達との約束があったとしても、必ず。
中学に入ってからは、私は運動部やないし、光はなぜか経験のないテニス部に入ったから時間が合わなくてテスト期間だけ一緒に帰っている。
「…上手いんやなぁ、やっぱり」
教室からちょうどよく見えるテニスコート。
全国レベルだからかそれなりに部員数もいる。
向こう側では白石先輩と謙也さんが試合をしていて、彼らの周りはたくさんの女の子たちが囲っていた。
相変わらず、すごい人気なんや。さすが。
光はいつも先輩達のことを悪態ついてばかりだけど、きっとすごい人たちなんだろうな。
光はサーブから前に走って打ち返し点を決めた。
すごく短い時間で試合を進めていく。
あれで初めてまだ1年ちょっとなんやもんね。すごいわ、ほんま。
窓を開けて乗り出すように見た。
「…かっこいい、」
私が、光の彼女だなんて。
光の付き合う人は飛びっきりの美人だと予想してたのに。
汗を拭う光が色っぽくって、少し見惚れた。
息を吐いた光は、ゆっくりとこちらを向いた。
合わさった視線。
ドキドキと胸が高鳴るのがわかった。
ほんの一瞬、目を細めてまた試合に戻る。
「〜〜っな、なんや今の…」
あんな優しい顔、今までみたことあらへん。
なんか、胸がくすぐったい。
何やこれ、ドキドキが収まらんのやけど。
今まで、こんなことなかったのに。変な感じや。
「…早く、光と話したいなぁ…」
自然に緩む頬を直すことは出来ない。
何だかとってもとっても…幸せ。
机に倒れ込んで、時計の針が早くまっすぐになるようにお願いして。
落ち着こうとゆっくり目を閉じた。
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