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□ガリガリ君ときみ
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ピンポーン


「おはようアンク。早かったね?」

「朝じゃないと暑いだろ。おい、アイス」

「冷蔵庫から取ってていいよ!俺、着替えてくるね」

まさかアンクが朝から来るとは思ってなかったから寝てたよ、と言いながら映司は着替えに行ってしまった。
迷うことなくつかつかと冷蔵庫の前まで来て、アイスを取る。
この間俺が気に入ったと言ったスイカバーがちゃんと買ってあるあたり、マメだなと思う。
乱暴に袋を破いて、アイスを口に入れる。

今日は昼からとても暑いというので朝から来たのに。
すてに朝から暑かった。
昼からはこれ以上だと言うのだから気が遠くなる。
さて今日は何本アイスを食ってやろうかと考えていると、着替えを終えた映司が戻ってくる。

「ごめんね遅くなって。どの部屋で勉強する?」

「…一番涼しい部屋」

「ん、了解。リビングでいいね」

映司はそこそこ広いマンションの一室で一人暮らしをしている。
ところどころにインテリアのようにパンツが飾られているが、それを除けばとてもキレイな部屋だった。
俺も違うマンションで一人暮らしをしているのだが、どう頑張ってもこんな部屋にはなれそうにはない。

そんなことを考えているうちに、映司がクーラーをつけて部屋が涼しくなった。

「よし、勉強会開始ー!」

「勉強会っていうか俺が教えるだけだろ」

「アンクも自分のテスト勉強!」

「めんどくせーな…」

「そんなこと言わないのっ!」

映司が数学の教科書を出していたのでつられて俺も数学を勉強する用意をした。
教科書をパラパラとめくる。やはりやる気は出ない。

やる気もなく暇なので映司を見ていることにした。
映司に質問された時だけ答えとけばいいだろう。

映司はどうやら数学が苦手なようだった。
難しい顔をして教科書とにらめっこをしている。
あれ、そういえば数学が苦手って前聞いたことがあったようななかったような…忘れた。
まあ、どれが苦手だろうがどうでもいいや、そう思いながらアイスを食べた。

「ねー、アンク」

「何だ」

「2問目から全然解けない…」

映司から渡された教科書を見ると、そこには基本問題ばかりが並んでいた。

「こんなのも解けねえのか…」

「数学苦手だし!仕方ないし!」

「公式あてはめろ、そんだけだ」

「どの公式?」

「ホラ、ここに書いてある1番の…」

「あー、それか!流石アンク!」

「出来て当たり前だ」


映司は要領を掴んだようで、しばらくは問題を解くのに没頭していた。
俺はと言うと、アイスを食べ終わったが次のアイスを取りにいくのが面倒で動けない。
仕方なく勉強しようと近くにあった教科書を開いて問題を解き始めた。





それからどのくらいたっただろう、
目の前がぼんやりして、横にいたはずの映司がアイスに変わって……ん?
アイスに変わって?

どういうことだと目をぱちぱち瞬きさせて改めて映司を見る。
どう見てもガリガリ君だった。
映司だったもの…いや、現ガリガリ君は何かを喋っている。
口がないからなのか聞き取りにくい。耳を澄ませた。

「アンク〜。暑いなら俺を食べて。俺を抱きしめて〜!」

!?
頭の中までアイスになったらしい映司ことガリガリ君が俺の上に勢いよく覆いかぶさる。
冷たいし、重い。
さっきまであれだけ暑かったのに途端に体が冷えて、ガリガリ君は固くて重くて…




「おい、やめ、ガリガ…じゃねえ映司!重い!っつうか、冷たい!」



勢いよく顔を上げると、俺の横にはガリガリ君なんていなかった。
映司が驚いた顔をして俺を見ていた。
やはり映司は映司だ、と思っていると俺は自分が寝ていたことにやっと気がついた。
あれは、夢か…いつの間に寝てしまったんだか。


「なに?ガリガ?ガリガリ君?」

「うるせえ。なんでもねえ」

「ガリガリ君?てか俺?が重いってどういうこと?どんな夢見たの??」

「別に…夢なんか見てねえ」

映司がガリガリ君になってそのガリガリ君に押しつぶされたなんて言えるか!
しかも最後のほうなんて「ほらアンク…俺のガリガリ君食べて…?」なんて言われたし。
まったく、どんな夢なんだ…

「ねー。変な夢みたことはわかってんだからさー。教えてよー?」

映司が擦り寄ってくる。
こういう時の映司は俺が喋るまで諦めない。

「早く言わないとさー…」

こうしちゃうよ?
と言いながら。

映司は俺の首に冷たい何かを当てた。

「っ、つめたっ、」

「冷たいでしょ?アイスノン。」

そう教えてくれた映司はさらに俺の首にアイスノンを滑らせる。

「ん、やだ…っ、それ、冷たい…っ」

「アンク、首弱いもんね?」

「うるせえ!早くこれどけろって、おい、やだって…まてっ、んっ…」

映司はアイスノンで冷えた手で俺の脇腹を撫でた。
冷たくて、くすぐったくて、思わず変な声が出た。

「わかった、言うから…っ」

「ほんと?」

「だからっこれ、やめろ…っ、あっ…」

アンク、アイスノンだけでえろーい。
そう茶化しながら映司はアイスノンをテーブルの上に置いた。
アイスノンを使って首とか撫でるからだろ…明らかにアイスノンだけのせいではなかった。


「…映司がガリガリ君になって、俺を押し倒した夢を見た…」

「なにそれ!アンクって夢までアイスなの?」

腹を抱えて笑いながら映司が聞いた。
うるせえ。俺だって好きでこんな夢見てるわけじゃねえんだよ。

「でもさ、その夢ってアンクの好きなもの詰め合わせたんでしょ?」

「あ?」

こんな夢に好きなもんもくそもあるか、そう言い返すと。

「だって、アンクはアイス好きでしょ?俺のことも好きだし」

「押し倒されるのも、好きなんじゃない?」

「ちょちょちょちょっと待て。何のことだ別にお前なんて…っ」

「焦りすぎ。顔真っ赤!かわいー」

映司がまた笑い転げた。
映司にこんなに笑われると腹が立つ。
だけど、さっきの映司なら本当に押し倒しかねないと思ったんだ。焦るのも無理はない。


「あ、もうすぐお昼じゃん。昼ご飯何がいい?」

一人で悶々としていた俺をよそに、映司は昼飯のことを聞いてきた。
別に飯に特に興味も関心も執着もないしなんでも良かった。

「…冷たいの」

「冷やしそうめんでいい?」

「好きにしろ」


映司が昼飯を作りにキッチンへ行く途中、何かを思い出したように振り返った。

「ねえ、デザートはガリガリ君にする?」

「ふざけんな!!」


その後、昼飯が出来るまでも食べてからも、やたら長く感じた勉強中も、俺が眠ることはなかった。
もう、ガリガリ君の夢なんて真っ平だからだ。




その後、俺は暑くて家に帰る気が起きず、結局映司の家に泊まった。
普段からちょくちょく泊まるので俺の服は何着も置いてある。
歯ブラシやマグカップまで置いてあるほどだ。同棲でもしているかのような錯覚すら覚える。
歯磨きを終え、髪を乾かし、いざ寝ようと思ったら全く眠れなかった。

「アンク?寝れないの?」

「ああ」

「ガリガリ君思い出しちゃう?」

「うるせえ。暑いだけだ」

「こっちおいでよ」

「なんだ」

「うん、こうしたかったの」

映司はベッドに俺を押し倒して抱きしめた。

「おい、なにすんだ…っ」

「こうしてたらさ、ガリガリ君の夢見てもいい感じに冷たいでしょ?押しつぶさないように加減するから!」

「お前、ホントにしつこいな…」

「なんかアンクでもそんな可愛い夢見るんだなーって思うと、ね」

「意外で悪かったな。俺もこんな夢初めてだ」

「まあまあ。そろそろ3時だし、寝ないと明日遅刻しちゃうよ?」

「…ん。」

「じゃあ、おやすみ」

「ああ。」



その日、俺はまたもガリガリ君になった映司に襲われる夢を見たのだった…
もうガリガリ君なんて嫌いだ!

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