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□もういちど、きみと。
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ああ、俺は消えたのか?
完全体になった俺は、確か、オーズに倒された。
少しずつメダルになっていく俺に、映司は、

「ずっと、一緒だからね、アンク」

と、優しい笑みで言った。

何が一緒だ、俺は消えちまったじゃねーか。

まあ、あの刑事は元通り、あの女も映司も喜んでんだろうな。
グリードもヤミーもいなくなったしな。
俺にとってははどうでもいいことだがな。


しかし、今の俺はどうなっているのだろう。
コアは誰の手元にあるのだろう?
此処は何処なのだろう?
死後の世界ってやつなのか。
はたしてグリードにもそんな場所はあるのだろうか。
幽霊にでもなったのだろうか。グリードの俺が?
馬鹿馬鹿しい。
どうせこの自我も、そのうち消えるのだろう。
死とは、無だ。
俺はただのメダルになったのだから、自我だって無くなるはずだ。

あー。アイス、もっと食っときゃよかったかな、なんて。
未練がましく思う自分がいたもんだから驚きだ。

そう思っていたら、意識が遠のき始めた。
ほら、俺はもう、完全に、消えるんだ。


えい、じ――――……






「あ。やっと目覚めたね、アンク」


俺は、目を疑った。
俺の目の前には、映司がいた。
まだ夢を見ているのか、俺はどれだけ未練がましいんだ、と。
悶々と考えていると、

「なに?夢だとか思ってるの?」

「当たり前だ。俺はお前に――」

「転生したって言ったら、信じる?」

「どういうことだ?」

「だから――」

映司が次の言葉を言おうとした瞬間、

「だからー。一回死んだけど、転生したんだよ。人間として、ね。」

聞き覚えのあるその声に顔を向けると、
その先にはカザリとウヴァ。
ガメルとメズールもいた。

「なん、で…お前らが…」

「カザリ達も、みんな。人間になったんだよ。」

映司が、言葉を続ける。

「もう一度、人間として。幸せに生きて欲しいんだ。」

「…フン」

どうやったのかは知らないが、コイツらしい答えだ。

「ね、アンク」

あの時と同じ、優しい笑みを浮かべて、映司は俺の名を呼ぶ。

「好きだよ、アンク。もう離したりしない」

「これからは、お前だけ守るから。俺だけのアンクでいてほしい。」

「幸せに、暮らそう。二人で。これから、ずっと。」



その言葉を聞いて、何故だか、
嬉しく思っている俺がいた。
今までより、感情というものが大きく感じられた。
これが、人間なのか…


「…アンク?」

何の反応も見せない俺を不思議に思ったのか、映司が俺の顔を覗き込んできた。

「アンク?…泣いてるの?」


なんのことだ、泣いてなんかないだろ、と。
自分の頬に手をやった。

その頬は確かに、涙で濡れていた。

「なん、で…」

「嬉し泣き?俺嬉しいよアンク…!」

ちょっと待て。
なんだこれは。何故俺は泣いている?
嬉し泣き…?


「なんだ。人間は嬉しいと泣くのか…?」

「あまりに嬉しいと泣いちゃうんだよ、そんなに嬉しかったんだね!」

そう言って映司は俺を優しく抱きしめた。

俺はそっと、背中に腕をまわした。
両手に感じる映司の温もり。
もう、俺の腕は変わらなかった。人間のままだ。

「…人間、か…」

「まあ、仕方ない。俺にアイス食わせるためにせいぜい働けよ、映司」

「アンク…!!」

極力、冷静に言ったつもりだったが。
感極まった映司に更に強く抱きしめられて、恥ずかしさがこみ上げてきた。


「でもアンク、人間はアイスだけじゃ生きていけないんだからね?」

「あ?」

「しっかりご飯、食えよ!」

「そんなの、知らねーよっ!」


ああ、こうして考えると、人間も良いのかもしれない。
食い物を食うこと、以外は。

映司、お前と一緒の、人間になれたのだから。
ずっと、俺が望んでたことだ。
こんな、メダルでできた不安定で脆い体じゃなく、もっと――…

もっと、確かな、人間になりたかった。

俺の欲望は、満たされたんだ。
そう分かると、幸せがこみ上げてきた。


これから、もう一度、映司と。


共に、歩んでいくのも、悪くない。
そう、思った。

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