ライフキーパー番外編“魔断城のとある1日”

□シュラバラバンバ
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 ある晴れた魔断城でのとある1日、魔性を刈る者──魔断士のみが往来出来る“戦士の層”で珍しく女性の怒鳴り声が響き渡っている。

 見習いや学童以外のライフキーパーであれば、魔断士以外の役職でも入る事は出来るが、各自の部屋などがあるので、やたらとプライバシーを損害する様な事は暗黙の了解で誰しもしなかった………

 ──筈である。

 ──が、修羅と化した魔断士ではないライフキーパーの女性2人と、魅了士アースが女の戦いを繰り広げていた。


 魔断士に女性がいない訳ではないが、魅了士や求捕士などに比べればいないに等しい程、圧倒的に女性の数は少ない。

 滅多に見れない女の喧嘩に男達は面白がって覗く野次馬と化し、余興として女達を囲み、眺めて楽しんでいた。


「私が付き合ってたのよ!」

「あんたみたいなアバズレ誰が相手にするもんですか!!」

「何で私まで巻き込むのよ!」

 今にも髪の毛を引きちぎりそうな勢いで取っ組み合いを始めようとする二人──下らない争いに巻き込まれて苛つくアース。

 そんな修羅場の中心に、魔断城内で知らない者はいないという程、男女の事には奥手で有名なザックが右往左往していた──これも、男達が注目した理由の1つである。

 何故に、女の手を握った事もない様な奥手のザックが、女の修羅場に入っているのか?

 ザックを知る魔断士達には不思議でしょうがなかったからだ。


「落ち着いて話し合えよ」

 女性達を落ち着かせようと必死に叫ぶザック──しかし、アースを覗いた女性達は喧嘩にエキサイトし過ぎ、ついには取っ組み合いを始め、ザックの声が耳に入らない。

 そんな取っ組み合いをしている2人を他所に、魅了士アースはその場を去ろうとしたが、2人のうちの1人がそのアースにかみついた。

「あんた、本当はイーギーに遊ばれて悔しいんでしょ?」

 勝ち気そうな女性がアースを小バカにする様に鼻でせせら笑う──その態度にアースは心のそこから呆れてため息をつく。

「馬鹿馬鹿しい!」

 アースの事を知るザックは女性の態度に憤慨し、彼女達の間に入っていった。

「おい、いい加減にしろよ」

 とどまる事を知らない女の嫉妬をザックは諌めたが徒労に終わる。

「そこの魔断士!あんたみたいなチンチクリンに誰も聞いちゃい無いわよ!
 自分がもてないからってイーギーに嫉妬しているわけ?」

「ち、チンチクリン?」
 接触をした事の無い他人も同然な女性に罵倒されて、ザックは言葉をなくした。

 それに、ザックがイーギーに嫉妬するなどあり得ない、ザックはイーギーの持っている物に全く興味がない(ラルダの件でその逆があるのをアースは知っていた)のもあるが、アースは渦中の“イーギーの同僚で親友”のザックが嫌いではなかったので、女のその一言でアースがキレた。

「あんた達、ザックに当たるのは止めなさいよね!
 ザックはね、あんた達と違ってイーギーの面倒見てやってんのよ!
 大体、イーギーの女グセの悪さはあんた達だって知っていたでしょうが?」

 そう啖呵をきったアースの言葉の意味は、恋する女の恐ろしい“妄想パワー”で歪められ、イーギーの行動全てを己の都合のいいように解釈して反論する彼女達は、ザックを心底驚かせた。


「私といる時は私の事だけを考えてくれていたわ!」

「違うわ!私よ!」


 不毛なやり取りをアースは鼻でせせら笑う。

「あのバカが1人に絞るなんて、そんなタマじゃ無いわよ。
 だいたい、イーギーは今、娜咤に熱上げてんだから、はなからあんた達なんて相手にしてないわよ」

 ザックはアースの言葉に心底驚いていた。

 てっきり、アースはイーギーの彼女だと思っていたからだ。

 それにしても素行が悪い親友である……というよりも、娜咤(なた)の件を知らなかったザックは、この場にいない“親友”にいささか腹が立ってきた。

 それに……ザックの記憶が立って正しければ、娜咤はイーギーが大嫌いである。

 そんな、脈のない娜咤を追っかけるよりも、側にいる美しく聡明なアースと付き合った方が、遥かに幸せになれるとザックは感じた。

 それにしても、諸悪の根元がザックの親友とされる“イーギー”な訳であるが、こんな野次馬が溢れかえるところで女性がわめき散らすのが理解出来ないザックは彼女達に質問をぶつけた。

「ところで、君達はここに何しに来たんだ?」

 ザックの質問にアース以外の2人をが顔を見合わせてからザックにつめより答えた。

「今日こそ関係をはっきりしても為よ!」

 ようはフラレたいのか?(思わず心の中で呟くザック)

「イーギーは何処よ!」
 これだけ騒いでも出てこないイーギーにとうとう痺れを切らした女性達は怒りの矛先をザックにかえた。

「まさか!あんた達グルになってイーギーを隠してるんじゃないでしょうね?」

 疑念はすぐさまもう1人の心にも引火した。

「やっぱり隠してんのね!」

 ザックやアースに反論の余地を与えずいきりたった女達は、同性のアースに平手打ちをしようと襲いかかってきた。

 乾いた音が辺りに響く。

「いってえ……」

 ザックは慌てアースを庇い、女達の平手打ちをおもいっきり受けるはめになってしまった。

 魔断士のザックなら、女の子の平手打ちなどよける事など造作は無いのだが、アースがいたし、何より女を相手に手を上げるなと育ての親の海羽に仕付けられていたので、ザックはフェミニストに育っていたのも理由の一つだ。

 野次馬達は、止めるどころかザックをからかい、2人を煽りだした。


「身を呈して女を庇って流石だねぇ〜」

「ザック、かっこつけてんじゃねーぞ!」


「おい、お前ら!イーギーなら女といたぞ」

「さっさとザック達をたたいて、イーギーを探しに行った方がいいんじゃねえの?」

 下卑た笑いを浮かべ、野次馬達は楽しんでいる。


「もういい加減にした方がいい。
 これ以上、こんな事をしても君達が惨めになるだけ。
 君達がどんなに騒いだって、イーギーの心に君達はいない。
 どうせなら、アースじゃなくて、イーギーをひっぱたいてやれよ」


 ザックの言葉は乙女心をに響いたが……

 落ち着きを取り戻しつつある彼女達にとってこの状況は受け入れ難く、その行き場のない感情の矛先を更にザックに向けて爆発させた。
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