ライフキーパー番外編“魔断城のとある1日”
□シュラバラバンバ
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「あんたに何がわかるのよ!!」
再びザックに平手打ちが襲いかかろうとしたその時──すんでのところで腕がピタリと止まる。
「はい、そこまで!!」
ザックに降り下ろされそうになった腕の主が後ろを振り返ると、魔断士最高責任者であるシドにがっしりと捕まれていた──そして、その後ろには、魅了士の最高責任者であるハーンが苦虫を潰した様な凄い顔(それでも美しいのが恐ろしい)をして立っていた。
「一体何の騒ぎだ?」
シドは何が起きたか聞いているだけで機嫌が悪いと言うわけではなかったが、ハーンは異様なまでに穏やかな表情で、それが不気味にザックは思えた。
「貴女達はこんなところで何をしているんです?」
ハーンは、微笑みながら優しく語りかけている……が、その眼光には冷たいものが宿っていた。
あまりの眼光の鋭さにその場にいる一同が固まる──そのうちの一人騒ぎの根元である女性は顔がひきつり冷や汗を流し始めたのをザックは見逃さなかった。
ザックに殴りかかろうとして、シドに止められたライフキーパーは求捕士と魅了士。
つまり、冷や汗をかいた女性はハーンの部下である──あれだけ騒いだ彼女だが、その眼光の意味をよく理解していたので、沈黙してしまった。
「おいおい、黙ってちゃわからんぞ?」
そう語るシドに対して、もう1人はふてぶてしいと言うか何と言うか、2人の直接の部下で無い求捕士だからか、シドとハーンにくってかかっていった。
「お二人には関係ありません!これは私達の問題です!」
「そうは言っても、ここは戦士の層。魔断士の居住エリアだ──そこで問題が起きれば、責任者の俺は黙って見てる訳にはいかないんだよ、お嬢ちゃん」
そう言うと、シドは軽くその求捕士であるライフキーパーのおでこを弾いた。
「ま、言いたくないなら言わなくってもいいさ、大方の理由はだいたい想像がつくからな」
シドは頭を抱えてため息をつき、ハーンは魅了士に向かい、厳しい口調で叱責した。
「魅了士エル、騒ぎを起こした罰は受けてもらいますよ。
求捕士ユキ、ハルカが依頼で魔断城にいないとはいえ、今回の事はいささか目に余ります。
この事はハルカに報告しますので、ハルカから今後の指示をあおいで下さい」
「なっ!!」
「何か?不服でも?」
反抗しようとするユキを、ハーンは眼力で黙らせた。
その様子を眺めながら、フーム…と呟き頭をクシャクシャとかくシド。
「まあ……今回の事はうちのイーギーも絡んでるし、一概にそのこらばかりをせめらんだろ?」
ハーンはシドに冷たい一瞥を送ってから口を開いた。
「そう言う問題ではすまないんですよ!女性が人前で髪を振り乱し取っ組み合いをするなど言語道断です!」
「だから……それも、この状況を煽って見ていたこいつらにも任があるわなあ?」
シドはそう言うと、野次馬達を睨み付け事態を分析する──野次馬の魔断士達は一瞬、ビクッと体をふるわせた。
「ここには女がいないからなあ……いい余興になっちまった訳だな」
シドの言葉に呆れるハーン。
「何を言ってるんです?女性なら海羽や他にもいるじゃないですか?」
「あれは女とは言わねえ………うがっ!!」
シドが話し終わるより前に、シドの後頭部に鉄拳よりも重たい拳が降り下ろされた。
「誰が女じゃ無いって?あ?」
頭を抱えたシドが後ろを振りかえると、そこには魔断城内で魔女と呼ばれる医術士ジーニアスに匹敵し、、クセのある事で“超”有名な海羽が立っていた。
「騒がしいから来てみれば……人の悪口かい?」
「何だお前、いたのかよ?」
後頭部を擦りながら海羽に質問をするシド──呆れた眼差しで海羽はシドを見つめた。
「あんたが私に雑用を押し付けたんでしょうが?」
「いや〜すまん、すまん!手伝ってくれてありがとさん、いつも感謝してるよ。なんなら俺の代わりに魔断士のボスになるか?」
「誰がそんな、しちめんどくさい事をするかっての!」
海羽の全身から発せられる気迫に負けないシドを、その場にいる魔断士達は羨望の眼差しで見つめる。
平和におさまるかのように思えたこの話は、海羽の目にある“者”が映った事により、事態は複雑化へとするかっての進みだした。
「まったく、何だってんだい……ザック!!」
悲鳴に近い声を上げる海羽──そう、海羽の目にザックが映ってしまったのだ。
叩かれた頬をさすっているザックが目に入った海羽は、先ほどまでの気迫はどこ吹く風で、周囲を蹴散らし、ザックの元に走って行く。
「ザック!いったいどうしたの?」
海羽の存在を発見して慌てるザック。
事の詳細を知ったら、海羽が何をするかザックには用意に想像が出来たからだ。
海羽はザックに被害をもたらす者を、男女問わず昔から容赦しないで叩きのめしてきた──すなわち、ザックに被害をもたらした彼女達は女であろうと、海羽にメッタうちにされるという図式が出来上がる。
ザックとしては、それだけは絶対に避けたかったので必死に事態を隠そうとしたが、その慌てっぷりが事態をかえって悪くした。
「何でもないよ」
「何でもない訳ないでしょ?頬っぺたが赤くなってるじゃない?」
親友であるザックの母親から託された海羽は、事、ザックの事になるとてがつけられなくなる。
2人のやり取りを見ていた野次馬の1人は、その事実を知らなかった様で、調子に乗って海羽の怒りに火を着けた。
「何だザック!
女に殴られたら、海羽に泣きつくのか?
お前は海羽がいないと何にも出来ないのか?
海羽のおっぱいでもしゃぶってな!」
そう言った野次馬が、ぐひひと笑った瞬間──海羽は目にも止まらぬ早さで移動し、悪態をついた野次馬の口と鼻を押さえつけ、そのまま野次馬を持ち上げた。
「何か言ったか?貴様、上級のライフキーパーである私に対して雑鬼ぐらいしか斬れない、たいした事のない魔断士が誰に向かって口を聞いている?」
女性がいない訳ではないが、圧倒的に数が少ないので、魔断士は男の世界と言っても過言ではない。
なので、女性であれば、その立場を築き上げるのは容易ではないが、その人間を黙らせられる程の実績を海羽は持っていたのだった。